《菊を抱く少女》
灰色の壁の前に、赤みがかった金髪の少女がひとり立っている。灰色の服を着て、組んだ両手に白い菊の花束を抱え、大きな黒い瞳でまっすぐこちらを見つめる。右の壁には少女の影が落ちる。
概要
《菊を抱く少女》(ポーランド語: Dziewczynka z chryzantemami)は、オルガ・ボズナンスカが1894年にミュンヘンで描いた油彩画である。厚紙に描かれ、縦88.5センチ、横69センチ。クラクフ国立美術館が所蔵する。所蔵館は、本作を画家の最も知られた作品の一つであり、最も完成度の高い作品の一つとする。館は象徴主義の作品に分類し、物思いと神秘の気配を漂わせながら、解釈をめぐる議論も呼んできた絵だと紹介している。
画面の読み解き
灰色がかった白い壁を背に、少女がひとりで正面を向いて立つ。赤みがかった金髪を肩まで下ろし、ふくらんだ袖の灰色の服を着て、組み合わせた両手に白い菊の花束を抱えている。所蔵館は、年に似合わず真剣な表情の少女が、青白い顔のなかの、熱に浮かされたように黒く光る大きな目で見る者をひきつけると述べる。まっすぐに向けられたその視線は、緊張と好奇心と大胆さを帯び、少女は催眠術師のように見る者と心を通わせるという。右手の壁には少女の影が落ち、画面の縁には茶色い地がところどころのぞく。右下に「Boznańska 94」の署名と年記がある。
技法・様式
所蔵館は本作を、繊細な銀灰色の色調だけに抑えた色彩の見事な腕前を示す作品と呼び、細やかな筆づかいで描かれていると解説する。また、上品な衣装を着せ、優雅な室内に置くというそれまでの子どもの肖像の約束事を破り、何もない壁の前に質素な服の少女を立たせることで、新しい型の子どもの肖像画を生んだとする。ポーランド文化の事典「ポルタ・ポロニカ」によれば、ボズナンスカは1890年ごろからジェームズ・マクニール・ホイッスラーの影響で冷たい銀灰色を好むようになり、1893年からはほとんど厚紙に描いていた。
来歴
1896年、ベルリンの国際美術展とウィーンに出品された。所蔵館によれば、そこで本作に目をとめた批評家ウィリアム・リッターは、パリの『ガゼット・デ・ボザール』誌で、インクの滴のような不思議な目をもつ少女に、画家が敬愛した詩人モーリス・メーテルリンクの描く人物の現代の理想を見た。作品は購入によって館に入り、所蔵番号はMNK II-b-1032。現在は本館の20〜21世紀ポーランド美術ギャラリーの「若きポーランド」の部屋に展示されている。2025年には京都国立近代美術館の「〈若きポーランド〉―色彩と魂の詩 1890-1918」展で日本でも公開された。
意義
ボズナンスカは、銀灰色の抑えた色調でモデルの内面に迫る肖像画を描き続けた画家である。本作はミュンヘン時代の代表作で、子どもの肖像に、見る者を落ち着かなくさせる謎めいた力を与えた作品である。