《夕べの鐘》
夕暮れの光が、川の向こうの森の梢を金色に染める。岬の上には白い壁と緑の円屋根の修道院が立ち、鏡のように静かな水面に姿を映す。川には人を乗せた渡し舟が浮かび、手前の岸には小舟がつながれている。空には薄紅の雲が流れる。
概要
《夕べの鐘》(露: Вечерний звон)は、ロシアの画家イサーク・レヴィタンが1892年に描いた油彩の風景画である。縦87.5センチ、横109センチのキャンバスで、モスクワのトレチャコフ美術館が所蔵する。所蔵館によれば、ロシアの自然に「いたるところに満ちている神々しい何か」を見たレヴィタンの思いが、この絵に最もよく表れている。1893年にはシカゴの万国博覧会に出品された。
画面の読み解き
所蔵館によれば、本作は《静かな僧院》(1890年、同館)の風景の主題を発展させたものだが、主題と構図は大きく変わった。レヴィタンは空間をより広く見渡すように描き、見る者の目は広い岸辺、森の遠景、そして修道院の立つ岬を回り込む川の湾曲へと導かれる。題に示された精神的な内容は、木々の梢を金色に染める夕日と、鐘の音にのるように流れる雲という、自然の特別な状態によって強められている。
技法・様式
キャンバスに油彩で描かれる。所蔵館によれば、輝くように白い修道院の壁と、静まりかえった水面が、風景に安らぎと調和を与え、見る者をほとんど祈りに近い物思いへと誘う。手前の岸の暗い緑と、夕日を受けた対岸の明るい森、空の淡い色が、穏やかな対比をつくっている。
来歴
所蔵館によれば、1918年にZ.V. ラトコワ=ロジノワの収集から同館に入った。所蔵番号はИнв.5663。
意義
所蔵館によれば、サヴラーソフとポレーノフに学んだレヴィタンは、短い20年ほどの画業で師たちの後を継ぎ、「気分の風景画」の創始者の一人となった。画家は手紙に「たぶん1時間もすれば鐘が鳴る。ああ、この時がどんなに好きか」と書いており、その言葉と響き合う本作は、ロシアの自然と精神の力をひとつに込めた、ロシア絵画で最も心のこもった風景画の一つとされる。