《アハシュエロス王の前のエステル》
- 作者
- アルテミジア・ジェンティレスキ
- 制作年
- 1620–1629年
- 素材
- キャンバス / 油絵具
- 寸法
- 208.3 × 273.7 cm
- 所蔵
- メトロポリタン美術館
- 時代
- バロック・ロココ
- 流派
- イタリア・バロック絵画
左で黄色いドレスの王妃エステルが気を失い、侍女たちに抱きとめられる。右の玉座では、羽根飾りの帽子に毛皮のブーツをはいた王アハシュエロスが、身を乗り出して立ち上がろうとしている。
概要
《アハシュエロス王の前のエステル》(英: Esther before Ahasuerus)は、イタリアの画家アルテミジア・ジェンティレスキが1620年代に描いた油彩画である。縦208.3センチ、横273.7センチのキャンバスに、旧約聖書「エステル記」の王妃エステルを描いた大作で、メトロポリタン美術館が所蔵する。館は本作を、画家の最も野心的な作品の一つとする。
画面の読み解き
館によれば、ユダヤ人のヒロイン、エステルは、ユダヤの民の虐殺を防ぐため、夫であるペルシア王アハシュエロスの前に進み出た。宮廷の作法を破るこの行いは、死の危険を伴った。画面は、王が願いを聞き入れる直前に、エステルが気を失う劇的な瞬間をとらえる。場面の構想には、歴史の再現よりも同時代の演劇が影響している。日本語版ウィキペディアによれば、左のエステルは明るい光の下で侍女たちに支えられ、右の王は影の中にある。王は羽根飾りの付いた豪華な帽子と、宝石で飾った毛皮のブーツという、当時の舞台の喜劇の人物に見られる装いで描かれている。
技法・様式
キャンバスに油彩で描かれる。館によれば、王の膝の左の大理石の床の下には、画家自身が塗りつぶした、犬を押さえるアフリカ系の従者の姿が一部透けて見える。日本語版ウィキペディアによれば、このペンティメントの従者と犬は、ヴェネツィアの画家パオロ・ヴェロネーゼの同じ主題の絵(ルーヴル美術館)を画家が参照したことを示す。エステルと侍女の頭の近さ、エステルの左手の位置、玉座の円い台座にも、ヴェロネーゼとの共通点がある。ただしヴェロネーゼの犬は王の足もとで休んでおり、エステルに飛びかかろうとはしていない。
来歴
ロンドン・ナショナル・ギャラリーが2020年の展覧会「アルテミジア」に際して公表した来歴によれば、本作は遅くとも1856年からウィーンのハラッハ伯爵家の収集にあり、1953年にローマのアレッサンドロ・モランドッティが購入した。1959年から1960年にはニューヨークのアクアヴェッラ画廊が扱い、1960年からナサニエル・P・ヒル夫人エリノア・ドーランス(のちのスチュアート・H・インガソル夫人)が所有して館に貸し出していた。1969年、夫人が館に寄贈した。所蔵番号は69.281。同ギャラリーは展覧会に本作を借り受け、制作年を1628〜1630年頃としている。
意義
日本語版ウィキペディアによれば、制作年については説が分かれる。ヘルマン・フォス(1924年)らは1630年代の最初のナポリ時代とし、メアリー・ガラードは1989年に1620年代初めとしたのち、2001年に1630年頃へ改めた。ジェシー・ロッカーは2015年、1626年から1630年にかけてのヴェネツィア時代の末の作とみた。画家はこのヴェネツィア滞在中に、1662年まで同地の収集にあったヴェロネーゼの絵を見たと考えられている。