《エプト川のカヌー》
画面の端で断ち切られた赤いカヌーに、白い服の二人の女性が乗り、一人がオールを水に差し入れる。画面の下半分は、水草の揺らめく暗い緑の川の水がほとんど埋め尽くしている。
概要
《エプト川のカヌー》は、フランスの画家クロード・モネが1890年頃に描いた油彩画で、ブラジルのサンパウロ美術館(MASP)が所蔵する。館の記録では、カンヴァスに油彩で描かれ、縦133.5センチ、横146センチ。所蔵番号はMASP.00092で、1953年に購入された。館は、セーヌ川の支流エプト川でカヌーに乗る女性たちを描いたこの作品を、水面の光の効果へのモネの関心を示すものとしている。
画面の読み解き
館の所蔵品目録(1998年)の解説によれば、モネは1887年から1890年にかけて、ジヴェルニーの自分の地所のそばを流れるエプト川に浮かぶカヌーを描くことに打ち込んだ。この経験から生まれた一連の作品でモデルを務めたのは、シュザンヌとブランシュのオシュデ姉妹である。二人の父は、モネの後援者で収集家だった、すでに亡き銀行家エルネスト・オシュデ、母アリスはのちにモネの2番目の妻となった。画面では、二人は白い服を着て帽子をかぶり、赤いカヌーに乗っている。右の女性がオールを水に差し入れ、カヌーの先は画面の左端で、後ろは右端で断ち切られている。
技法・様式
館の学芸チームの解説(2015年)によれば、厚く塗られた絵具は純色でできており、離れて見ると混ざり合う。画面の下の部分をすべて占める川の流れの近さは、モネが水草の映り込みと川の深さの両方の効果を求めていたことを示している。人物のぼけと、画面の縁で断ち切られたカヌーの構図は、画家に決定的な影響を与えた写真の言葉を思わせ、当時フランスに出回っていた日本の木版画も思い起こさせるという。目録の解説は、写真家ナダールとの友情とモネの写真への関心がこの構図の切り方を説明し、姉妹のぼけは水と舟の動きによって生まれたとする研究者の見方を紹介する。構図の源の一つとして、女性が蓮の花を摘む姿を描いた鈴木春信の版画が指摘されてきたとも記す。
来歴
館の目録の解説によれば、この連作は、所在の分からない《ばら色の舟》から始まり、オルセー美術館の《ジヴェルニーの舟》や、東京の国立西洋美術館の《舟遊び》も含む。館の作品には準備のための習作も知られている。モネ自身、1890年6月22日に友人の批評家ギュスターヴ・ジェフロワに宛てた手紙で、「またしても、とてもできないことに取り組んでいる。水と、その底で揺れる草だ」と本作に触れている。
意義
館の目録の解説は、本作のとりわけ独特な点を、画面の下の部分でほとんど手に触れられそうなほどの現実感を帯びる水の近さに見る。モネは、ここでは一度だけ、水面の光の反射ではなく水の深さを描こうとしたかのようで、連作のなかでもこの点で本作はただ一つの例だという。目録は、水のこの新しい見え方がふたたび得られるのは30年以上後、1918年から1924年の作品になってからだと述べる。