《空気ポンプと鳥の実験》
- 作者
- ジョセフ・ライト
- 制作年
- 1768年
- 素材
- キャンバス / 油絵具
- 寸法
- 183 × 244 cm
- 所蔵
- ロンドン・ナショナル・ギャラリー (2026年9月現在、ダービー博物館・美術館に貸出中)
- 時代
- バロック・ロココ
夜の部屋で、赤い衣の講演者がガラスの容器から空気を抜き、中の白いオウムが翼を広げて倒れる。顔を覆う少女、見つめ合う恋人たち、頭骨を前に考え込む老人。一本のろうそくの光が、人々の顔を闇から浮かび上がらせる。
概要
《空気ポンプと鳥の実験》(英: An Experiment on a Bird in the Air Pump)は、ジョセフ・ライトが1768年に描いた油彩画である。縦183センチ、横244センチ。ロンドン・ナショナル・ギャラリーが所蔵する。夜の部屋に集まった人々の前で、講演者が空気ポンプの実験を行い、ガラスの容器に入れた白いオウムから空気を抜いていく。講演者は空気をすべて抜いて鳥を死なせるのか、それとも空気を戻して生き返らせるのか。所蔵館によれば、ライトが1760年代に描いた一連の「ろうそくの光」の絵のなかで、最も大きく、野心的で劇的な作品である。
画面の読み解き
部屋の明かりは、テーブルの上の大きな丸いガラス器の陰で燃える一本のろうそくだけで、器の中には病に冒された人の頭骨が沈んでいる。その上のガラスの容器の中で、白いオウムが翼を広げて倒れる。赤い衣の講演者は片手を上げて容器の栓に指をかけ、こちらをまっすぐに見つめる。所蔵館は、生死を決める力を握る講演者が、決めるのは見る者だと問いかけているかのようだと述べる。右では、顔を覆う少女の肩を父親が抱き、もう一人の少女は鳥を見上げる。右端の老人は頭骨を前に考え込んでいる。左では若い男女が見つめ合い、手前の男は懐中時計で実験の時間を計り、隣の少年が身を乗り出す。窓辺の少年はひもを手に、助かった鳥のために鳥かごを下ろす時を待つ。窓の外では、雲の陰に月が光る。
技法・様式
一本の光で暗い室内を照らし、人々の顔と手を浮かび上がらせる描き方は、ライトの得意とした夜の場面の典型である。所蔵館は、ライトが、見ることに耐えられない少女から互いしか目に入らない恋人たちまで、人々の反応の違いに焦点を当てていると指摘する。左の男女は、画家の友人で1769年に結婚したトマス・コルトマンとメアリー・バーロウと伝えられる。所蔵館の目録によれば、頭骨とろうそくは図像の伝統的な組み合わせで、ろうそくは過ぎゆく時を、頭骨はその結末を表す。所蔵館は本作を、科学実験の劇であると同時に、時の移ろい、人の知の限界、命のはかなさを思わせる現代のヴァニタスとみている。白いオウムは1760年代のミッドランドでは珍しい鳥だったが、ライトはすでに《ウィリアム・チェイス夫妻の肖像》に描いていた。
来歴
本作は1768年のイギリス美術家協会の展覧会に出品され、同年9月にはデンマーク国王を迎えた特別展にも並んだ。医師ベンジャミン・ベイツが画家から200ポンドで買い、ウォルター・ティレルに譲られた。エドワード・ティレルが1854年にクリスティーズの競売にかけたが落札されず、1863年に所蔵館へ寄贈した。所蔵番号NG725。2026年9月現在、ダービー博物館・美術館に貸し出されている。
意義
目録によれば、描かれた実験は、1749年からロンドンと地方で天文学の講演を行っていた器具製作者ジェームズ・ファーガソンらの公開実験を背景にしている。2025年11月から2026年5月にかけて、ロンドン・ナショナル・ギャラリーで展覧会「ライト・オブ・ダービー 影の中から」が開かれ、本作も出品された。展覧会は2026年6月から11月までダービーに巡回し、本作と《太陽系儀の講義》が80年ぶりに画家の故郷にそろった。所蔵館はこの展覧会で、ライトを啓蒙思想の旗手とみる従来の見方を問い直し、夜の場面で死や憂い、懐疑を探った画家として捉え直した。鳥の生死を宙づりにしたまま見る者に委ねる本作は、その読み方によく合う。