《天性の素質の寓意》
- 作者
- アルテミジア・ジェンティレスキ
- 制作年
- 1615–1616年
- 素材
- キャンバス / 油絵具
- 寸法
- 152 × 61 cm
- 所蔵
- カーサ・ブオナローティ
- 時代
- バロック・ロココ
- 流派
- イタリア・バロック絵画
雲に腰かけた若い女が、丸い羅針盤を両手で肩の高さに掲げ、顔を上げて遠くを見やる。体には青みがかった布と白い薄衣がまとわりつき、右上の暗い空には小さな星がひとつ光る。
概要
《天性の素質の寓意》(伊: Allegoria dell'Inclinazione)は、イタリアの画家アルテミジア・ジェンティレスキが1615年から1616年に描いた油彩画である。縦152センチ、横61センチのキャンバスで、フィレンツェのカーサ・ブオナローティが所蔵する。ミケランジェロの大甥ミケランジェロ・ブオナローティ(イル・ジョーヴァネ)が、館の「ガッレリア」の天井のために注文した寓意画である。
画面の読み解き
所蔵館によれば、ガッレリアは館の主階にあって偉大な祖先を讃える豪華な部屋の最初にあたり、巨匠の生涯の名場面と、巨匠が体現した美徳の擬人像によってミケランジェロを讃える。天井の画布は巨匠の死と神格化の場面を描き、その周りをミケランジェロの資質の寓意が取り囲む。「インクリナツィオーネ」は、芸術の創造へ向かうミケランジェロの生まれつきの素質を表し、アルテミジアはこれを、雲の上に身を預け、羅針盤を手にする裸の女性として描いた。細長い画面いっぱいに、女は雲に腰を下ろし、両手で丸い羅針盤を肩の高さに掲げる。所蔵館の作品解説によれば、その澄んだまなざしは、見上げる人々の頭上を越えていく。体には青みがかった布がまとわり、白い薄衣が胸から腕へかかって、素足の脚が雲の下へ伸びる。所蔵館の展覧会によれば、羅針盤は、注文主と画家がガリレオ・ガリレイら科学の世界とつながっていたことを物語る。
技法・様式
キャンバスに油彩で描かれる。所蔵館の作品解説によれば、カラヴァッジョのいたローマで過ごした濃密な年月のあとに描かれた本作は、その自然主義によって、部屋のほかの画布から際立つ。修復を支援したカリオペ・アーツによれば、人物の姿勢は、同じ館にあるミケランジェロの浮彫り《ケンタウロスの戦い》の中央の人物に想を得たという。2022年からの修復と診断では、画家の当初の意図や下描き、のちに一部を覆われた元の絵の層が明らかになった。修復家エリザベス・ウィックスによれば、後世の加筆はすでに歴史の一部なので取り除けないが、調査の画像から元の姿を仮想的に再現できる。
来歴
所蔵館によれば、本作はガッレリアで最初に注文された画布のひとつで、ブオナローティ家の文書には、男性の画家たちを大きく上回る34フィオリーノの支払いが記録されている。アルテミジアは、自分と夫の借金のために金を必要としていた。1680年頃、注文主の子孫、おそらく甥のレオナルド・ブオナローティが、画家バルダッサーレ・フランチェスキーニ(通称ヴォルテッラーノ)に、裸を隠す青い布と薄衣を描き加えさせた。フィレンツェ市の告知によれば、館に住む彼は、妻と子どもたちの前での礼節と慎みを守ろうとした。2022年9月、本作はおそらく描かれてから初めて天井から下ろされ、2023年4月まで館内で公開の修復を受けた。
意義
所蔵館の展覧会によれば、フィレンツェ時代(1613〜1620年)のアルテミジアは大公コジモ2世・デ・メディチの庇護を受け、1616年7月19日、ただ一人の女性として素描芸術アカデミーに迎えられた。修復を終えた本作は、2023年9月からのこの展覧会「Artemisia UpClose」で、注文主との関係を伝える自筆の文書や、メディチ家の注文によるパラティーナ美術館の《マグダラのマリア》と並べて示された。カリオペ・アーツの共同創設者マージー・マッキノンは、女性が解剖学を学べなかった時代に、画家が女性の体を画面の中心に据える力を示した作品とする。