《鏡の前で髪を結う裸婦》
- 作者
- クリストファー・エカスベア
- 制作年
- 1841年
- 素材
- キャンバス / 油絵具
- 寸法
- 33.5 × 26 cm
- 所蔵
- ヒアシュプロング美術館
- 時代
- 新古典・ロマン
- 流派
- 新古典主義
腰に白い布を巻いた女が、こちらに背を向け、右手を上げて髪をまとめる。左から差す光が背中と肩を照らし、壁の楕円の鏡には、伏し目がちの顔と胸元が映る。左手は小箱の置かれた机に軽く触れている。
概要
《鏡の前で髪を結う裸婦》(デンマーク語: En nøgen kvinde sætter sit hår foran et spejl)は、デンマークの画家クリストファー・エカスベアが1841年に描いた油彩画である。縦33.5センチ、横26センチの小さなキャンバスで、ヒアシュプロング美術館が所蔵する。美術アカデミーの裸体モデルの授業から生まれた絵で、同館を代表するデンマーク黄金時代の名作とされる。
画面の読み解き
画面の女は腰から下を白い布で覆い、こちらに背を向けて立つ。右腕を上げて、中央で分けた茶色の髪をうなじの上でまとめ、耳には金の耳輪が光る。左から差す光が左の肩と背中を照らし、背骨と肩甲骨のくぼみに柔らかな影を落とす。右の壁に掛かった赤い縁の楕円の鏡には、伏し目がちの顔と胸元が映るが、上げた腕が顔の一部を隠す。左手は、小箱の置かれた緑の机の端に軽く触れている。女は見る者と目を合わせず、画家はモデルに対して控えめな距離を保っている。長方形の画面、楕円の鏡、腕とその影がつくる三角形が、静かな幾何学の調和を生む。
技法・様式
キャンバスに油彩で描かれる。画家の日記をもとにした研究によれば、モデルはフロレンティーネという職業モデルで、1841年6月12日から9月16日までアカデミーで務めた。本作の姿は8月9日から9月16日の間に描かれ、教え子のルズヴィ・アウゴスト・スミスやサリー・ヘンリケスも、同じ姿をそれぞれの位置から描いた。同じ大きさの鉛筆と水彩の習作も残る。ポーズには、1820年に見つかり、アカデミーが鋳造の写しを持っていたミロのヴィーナスの面影がある。
来歴
エカスベアは1843年2月9日、彫刻家ベルテル・トーヴァルセンとともにアトリエを訪れたスタンペ男爵夫人に本作を売り、日記に「スタンペ夫人がフロレンティーネの小さな半裸の像を得た」と記した。のちにタバコ製造業者ハインリヒ・ヒアシュプロングが1895年に取得し、夫妻の収集とともに国に贈られた。館は本作を1841年の作とする。デンマークの国の百科事典『レックス』はなお「1837年頃」とするが、これは1898年の研究にさかのぼる古い説で、日記とアカデミーの記録から1841年と確かめられている。
意義
『レックス』によれば、エカスベアはアカデミーに女性の裸体モデルの授業を取り入れ、モデルの研究を新しくした。同事典は本作を、クリステン・クプケの肖像と並ぶヒアシュプロング美術館の黄金時代の主要作に挙げる。背を向けた女性の姿は、のちにハマスホイが妻を描いた室内画にも通じる。2015年には広告に使われた本作の画像を Facebook が裸体を理由に一時止め、のちに誤りと認めて話題になった。