《三美神》
黒一色の背景の前、小石の散る地に、三人の裸の女神が立つ。左は背を向けて振り返り、中央は羽根飾りのついた赤い帽子をかぶって正面を向き、右は片脚を曲げて隣の肩に手をかける。三人とも金の首飾りをつけている。
概要
《三美神》は、ドイツの画家ルーカス・クラナッハ(父)が1531年に描いた油彩の神話画で、パリのルーヴル美術館が所蔵する。館の記録では、ブナ材の板に描かれ、縦36.6センチ、横24.4センチの小さな作品で、所蔵番号はRF 2011-1。館は本作を、クラナッハの作品の中で三美神を主題にした数少ない例の一つとしている。2010年から2011年にかけて、館が初めて行った一般からの大規模な募金によって購入された作品として知られる。
画面の読み解き
黒一色の背景の前、小石の散る明るい地面の上に、三人の裸の女性が並ぶ。左の一人は背を向けて立ち、顔だけを右へ振り返らせる。中央の一人は、白い羽根で縁どった大きな赤い帽子をかぶって正面を向き、片手を腰に当てる。右の一人は長い金髪を背に垂らし、片脚を後ろに曲げて、中央の女性の肩に手をかける。三人はみな、太い金の鎖の首飾りをつけ、薄く透ける布をわずかにまとうだけである。右の背景には、クラナッハが署名の代わりに用いた翼のある蛇の紋章と、1531年の年記が小さく記されている。
技法・様式
館の報道資料によれば、三美神は古代の名高い主題で、多くの神話の変奏を生み、しばしば喜びと豊かさと輝きを擬人化したものとされる。北方の画家の写実とイタリア絵画のより柔らかな想像力の交わるところに立つクラナッハは、この主題を、きわめて個性的で、意図して皮肉を込めた形で描いたという。館の収蔵品データは、本作を道徳的、キリスト教的な高みへの上昇の意味で読むべきものとし、古代の三美神アグライア、エウプロシュネ、タレイアに、寛大さと隣人への愛の徳が与えられているとする。
来歴
報道資料によれば、本作は1531年に描かれて以来、ずっと個人の手にあった。館の記録では、1832年のロンドンの競売に出た「クラナッハ、三美神」がこの絵である可能性があり、のちにフランスのラブリフ侯爵家の所蔵となった。1908年に画商ジャック・セリグマンが入手し、その子で同じく画商のフランソワ=ジェラール・セリグマン、その妻フランソワーズへと受け継がれた。2009年7月、輸出の申請に際して国宝級の文化財に指定され、館には400万ユーロの購入資金を集める猶予が与えられた。会計事務所マザールなどの企業の支援に加え、2010年11月15日から2011年1月31日まで個人と企業からの寄付を募り、7,000人を超える寄付者の協力を得て、2011年2月に館が購入した。
意義
館は購入の呼びかけで、本作がルーヴルのクラナッハの収集の欠けた部分を補うと述べている。それまで館にあったクラナッハの絵は、3点の肖像画、1点の神話画、風景の中に立つヴィーナスなどわずかで、いずれも本作ほどの表現の力をもたないという。購入後の2011年10月から12月には、サン=プリ礼拝堂での展示「三美神」に出品され、2024年にはブザンソン美術考古学博物館の「神聖ローマ帝国の宝 フランスの収集にあるドイツ・ルネサンス絵画」展にも出品された。