《ヴェールの婦人》
- 作者
- アレクサンドル・ロスラン
- 制作年
- 1768年
- 素材
- キャンバス / 油絵具
- 寸法
- 65 × 54 cm
- 所蔵
- スウェーデン国立美術館
- 時代
- バロック・ロココ
- 流派
- ロココ
黒い絹のヴェールを頭からかぶった若い女が、たたんだ扇を頬に寄せ、片目だけをのぞかせてこちらにほほえむ。扇を握る手には赤い絹の手袋、胸元と袖口には白いレースがのぞく。
概要
《ヴェールの婦人》(スウェーデン語: Damen med slöjan)は、スウェーデンの画家アレクサンドル・ロスランが1768年に描いた油彩画である。縦65センチ、横54センチのキャンバスで、スウェーデン国立美術館が所蔵する。黒い絹のヴェールをかぶった画家の妻、フランスの画家マリー・シュザンヌ・ジルーストを描いた肖像画で、館で最もよく知られ、愛される絵の一つである。
画面の読み解き
館の解説によれば、女は黒い絹のヴェールと手にした扇で顔を半ば隠し、ヴェールの下には特別な機会のための白いレースとピンクの絹をまとう。ボローニャ風の装いで、仮装舞踏会のための身なりである。誘うようにほほえみながら、自分の一部しか見せず、秘密を保とうとしているようにみえる。館は、親密さと近寄りがたさ、誘惑と慎みといった対立の戯れが、この絵の魅力を大きく支えているとする。画面では、ヴェールが額から右目の上までを覆い、たたんだ扇が頬に寄せられて、赤い絹の手袋をはめた指がその柄を握る。首には細い黒のリボンを巻き、頬はほんのりと赤らむ。背景は飾りのない茶色の壁で、人物の黒いヴェールが画面のほとんどを占める。
技法・様式
キャンバスに油彩で描かれる。館の展示解説によれば、ロスランは18世紀に最も多くの注文を受けた肖像画家の一人で、絹や金、刺繍、ビロードの質感を巧みに描き分ける腕前が、その人気を支えた。本作でも、光を受けて照り返す黒い絹のヴェール、金の骨と花模様の扇、胸元と袖口の白いレースが、それぞれの手ざわりで描き分けられている。画面には1768年の署名がある。
来歴
館によれば、本作は1769年にパリで、アフリカ風の衣装の女を描いたロスランの別の肖像とともに展示された。ロスランとジルーストは1752年にパリで出会っている。本作は1945年、スウェーデン協同組合連合とヒルデガルド・タムの寄贈で館に入った。所蔵番号はNM 4098で、いまは18世紀の美術を集めた第1603室に展示されている。
意義
館によれば、18世紀の都市の社交生活では芝居が大きな位置を占め、仮装して役を演じることはありふれた娯楽だった。扇は社交の道具であるだけでなく、ひそかな合図を送るためにも使われ、持ち方や開き方、閉じ方にそれぞれ意味があった。たたんだ扇で頬をなでるしぐさは「あなたを愛しています」を意味しえたといい、館は、その合図を最初に受けとったのは妻を描く画家自身だったとする。また館は、名の忘れられた女性の肖像が世界の美術館に多く残るなかで、本作の女性が肖像画家として活躍したジルーストその人であることに注意をうながす。