《グロス・クリニック》
- 作者
- トマス・エイキンズ
- 制作年
- 1875年
- 素材
- キャンバス / 油絵具
- 寸法
- 243.8 × 198.1 cm
- 所蔵
- フィラデルフィア美術館 (ペンシルヴェニア美術アカデミーとの共同所有)
- 時代
- 写実・印象派
- 流派
- 写実主義
天窓の光が差す薄暗い階段教室で、黒い服の外科医が血に染まったメスを手に振り返る。その前では医師たちが患者の太ももの手術を進め、左では女が身をすくめて顔を覆う。後ろの席から学生たちが見守る。
概要
《グロス・クリニック》(英: Portrait of Dr. Samuel D. Gross (The Gross Clinic))は、アメリカの画家トマス・エイキンズが1875年に描いた油彩画である。縦243.8センチ、横198.1センチで、フィラデルフィア美術館とペンシルヴェニア美術アカデミーが共同で所有する。外科医サミュエル・D・グロスの手術講義を描いた集団肖像画で、館はアメリカで描かれた最も偉大な絵の一つとする。
画面の読み解き
館の解説によれば、舞台はジェファソン医科大学の階段教室で、天窓からの光の下、グロスの指揮で5人の医師が若い患者の左の太ももを手術している(1人はグロスの陰に隠れる)。患者は太ももと骨ばった尻、靴下をはいた足しか見えない。主任のジェームズ・M・バートンがかがみこんで切開部を探り、チャールズ・S・ブリッグズが脚を押さえ、ダニエル・M・アペルが開創器で傷口を開く。麻酔医はクロロホルムを浸したナプキンを患者の顔にあて、書記が記録をとる。左では、患者の母親と伝えられる女が身をすくめて目を覆う。手術の成功を確信するグロスは落ち着いて学生たちに語りかけ、右端の席ではエイキンズ自身が書きとめている。暗い背景の階段席には、学生たちの顔が浮かぶ。
技法・様式
キャンバスに油彩で描かれる。館によれば、外科医の指とメスは鮮やかな赤い血に染まり、開いた切開部は、患者の体の向きが読みにくいこともあって、見る者を引きつけると同時に戸惑わせる。構図や色、細部の扱い、形と空間の確かな表現を称える者もいたが、多くの人は醜く芸術らしくない写実として退けた。館は2010年、保存修復家マーク・タッカーの指揮で、ほぼ50年ぶりに本作の洗浄と修復を行い、準備の習作やX線写真とあわせて展覧会で公開した。
来歴
館によれば、エイキンズは本作を、1876年にフィラデルフィアで開かれる建国100年記念の万国博覧会のために描き、自らの才能を示すとともに、故郷の科学の達成をたたえようとした。だが審査は主題が血なまぐさすぎると見たのか、本作を美術の展示館に入れず、絵は陸軍の模範野戦病院の展示に置かれた。1878年、ジェファソン医科大学の同窓会がエイキンズから200ドルで買い、大学に贈った。2007年、絵を地元に残すための前例のない募金運動を経て、3,600を超える寄付者の支えのもと、ペンシルヴェニア美術アカデミーとフィラデルフィア美術館が買い取った。所蔵番号は2007-1-1。
意義
館の教材によれば、グロス(1805〜1884年)は同大学の最初期の卒業生で、「アメリカ外科の皇帝」と呼ばれた。描かれた手術は、骨の感染症の患者の太ももの骨から壊死した組織を取り除くもので、解剖学の新しい理解による治療の革新を示す。1876年の地元紙は「アメリカでこれより偉大なものが描かれたことを知らない」と書き、1879年の美術誌は「解剖室から出るべきではなかった」と評した。本作は画家の生前から最高傑作と認められ、いまではアメリカ美術史で最も多く複製され、論じられる絵の一つである。