《シテール島への巡礼》
バラを巻きつけたヴィーナス像のそばで、着飾った恋人たちが立ち上がり、丘を下って金色の舟へと向かう。舟の上には小さなキューピッドたちが舞い、その向こうには霞んだ湖と山並みが広がる。
概要
《シテール島への巡礼》(仏: Pèlerinage à l'île de Cythère)は、アントワーヌ・ヴァトーが1717年に描いた油彩画である。縦129センチ、横194センチ。パリのルーヴル美術館が所蔵する。ギリシアの神話で愛の女神アフロディテ(ヴィーナス)にゆかりの島シテール(キテラ)へ、巡礼の姿をした恋人たちが舟で向かう場面を描く。画家が王立絵画彫刻アカデミーに入会するために提出した作品で、長く《シテール島への船出》の名でも呼ばれてきた。ロココを代表する作品である。
画面の読み解き
右手の木陰に、バラの花を巻きつけたヴィーナスの像が立ち、その台座には矢を入れた矢筒が立てかけられている。像のそばでは、扇を手にした女に男がささやきかけ、足もとには小さなキューピッドが座り込んでいる。その左では、男が座り込んだ女の手を取って立ち上がらせ、さらに左では、巡礼の杖を手にした男が女の腰に手を回して丘を下り、女は名残惜しそうに振り返る。丘の下では多くの男女が集い、水辺には金色の舟が待つ。舟の上では、たいまつを手にした小さなキューピッドたちが空に舞う。遠くには霞んだ湖と白く光る山並みが広がり、遠ざかるほど青白くかすむ空気遠近法で奥行きが表されている。
技法・様式
歴史教材サイト「イメージで見る歴史(Histoire par l'image)」の解説で、ピエール=イヴ・ボールペールは、バラはやさしい愛の結び目を、台座の矢筒はキューピッドの矢を、舟の船尾の貝殻は巡礼とヴィーナスの誕生の両方を思わせると解説する。恋人たちが島へ向かうのか、島から帰るのかは長く議論されてきた。ヴァトーは、1702年に書かれたダンクールの喜劇『三人のいとこ』から着想を得たとみられる。ウォレス・コレクションは、ヴァトーをフランス絵画で最も優れた色彩画家の一人とし、18世紀のフランスでおそらく最も偉大な素描家だとしている。
来歴
所蔵館によれば、本作は1717年、王立絵画彫刻アカデミーへの入会作品として提出された。ウォレス・コレクションによれば、ヴァトーは1712年7月30日に入会候補に認められたが、アカデミーから何度も督促を受けて、5年後の1717年8月28日に本作で会員となった。本作は18世紀を通じて、ルーヴル宮にあったアカデミーの集会室に掛けられ、1795年にアカデミーの収集とともに接収された。所蔵番号INV 8525。現在はシュリー翼の第917室に展示されている。
意義
ボールペールによれば、アカデミーが本作を登録したとき、題は消されて「雅宴画(フェート・ギャラント)」に書き換えられた。前例のない主題に、アカデミーが新しい区分を設けたと考えられてきた。一方、ウォレス・コレクションは、ヴァトーは雅宴画という特別な区分ではなく、歴史画家として正会員に迎えられたとする近年の見方を紹介している。いずれにせよ、野外で憩う着飾った男女を描く雅宴画はヴァトーの代名詞となり、ランクレやパテルら多くの画家に受け継がれた。