《晩鐘》
夕暮れの広い畑で、農民の男女が仕事の手を止め、うつむいて祈っている。男は脱いだ帽子を胸の前に持ち、女は両手を組む。足もとにはじゃがいもの籠、遠くの地平線には教会の塔が見える。
概要
《晩鐘》(仏: L'Angélus)は、フランスの画家ジャン=フランソワ・ミレーが1857年から1859年にかけて描いた油彩画である。縦55.5センチ、横66センチのキャンバスで、パリのオルセー美術館が所蔵する。所蔵館によれば、じゃがいもの収穫の手を止めた男女が、受胎告知で天使がマリアに告げたあいさつを思い起こす祈り、アンジェラス(お告げの祈り)を唱えている。ミレーは1865年、この絵は、昔畑で働いていたころ、鐘の音を聞くと祖母が必ず仕事の手を止めさせ、亡くなった人たちのためにアンジェラスを唱えさせたことを思いながら描いたと語った。
画面の読み解き
夕暮れの畑の手前に、男女が向かい合って立ち、うつむいている。男は脱いだ帽子を両手で胸の前に持ち、女は両手を胸の前で組んで深く頭を垂れる。所蔵館によれば、仕事の道具であるフォーク、籠、袋、手押し車がすべて描かれている。左ではフォークが土に突き立てられ、二人の足もとにはじゃがいもを入れた籠が置かれ、右の手押し車には袋が積まれる。遠くの地平線には教会の塔がかすかに見え、空の高いところを鳥の群れが飛んでいく。右下に「J.F. Millet」の署名がある。
技法・様式
所蔵館によれば、本作のもとにあるのは子どもの頃の思い出で、何らかの宗教的な感情をたたえようとしたのではなく、ミレー自身、教会の務めを守る信者ではなかった。画家は素朴な場面に、変わることのない農民の暮らしのリズムを留めようとし、仕事の合間の休息のひとときに目を向けた。広大でひとけのない平原の中、手前にぽつんと置かれた二人は、画面が小さいにもかかわらず記念碑のような姿を見せる。顔は影に沈み、光は身ぶりと姿勢を浮かび上がらせる。こうして絵は深い祈りの気持ちを表し、ミレーは逸話を超えて典型へと向かった。
来歴
所蔵館と文化省の文化財データベースによれば、本作は1857年頃にアメリカのトマス・ゴールド・アップルトンが注文したが、アップルトンは引き取らなかった。1860年からパプルー、アルフレッド・ステヴァンス、ブリュッセルのファン・プラート、1864年からポール・テス、1865年からエミール・ガヴェと持ち主が替わり、1865年にパリのピエール・プティの画廊で、1867年にパリ万国博覧会で展示された。1872年に画商ポール・デュラン=リュエルが買い、ゴーシェ、ジョン・W・ウィルソンを経て、1881年のウィルソンの売り立てののちセクレタンの収集に入る。文化財総括学芸員シャンタル・ジョルジェルが、生誕200年を記念する2014年の国の記念行事に寄せた文章によれば、1889年7月1日のセクレタンの売り立てで、本作はアントナン・プルーストが「愛好家の一団のため」に55万3000フランで落札したが、すぐにアメリカ美術協会に譲られ、1年後にアルフレッド・ショシャールが80万フランで買った。1910年にショシャールの遺贈で国の所有となり、ルーヴル美術館を経て1986年にオルセー美術館に移された。
意義
所蔵館によれば、逸話を超えた典型へと向かったことが、おそらく本作のたどった並外れた運命を説明する。1889年にルーヴル美術館が買おうとした際には愛国的な熱狂の的となり、画家サルバドール・ダリに崇められ、1932年には切り裂かれる被害にあい、20世紀のうちに世界に名高い象徴となった。ジョルジェルは、こうした転変と法外な値段、遺贈という象徴的な行為が、長く好まれなかったこの作品を世界で最も有名な絵の一つにしたと述べる。その一方で、フランスでは《晩鐘》の存在があまりに大きく、ミレーという画家の仕事の本質を覆い隠しかねなかったとも指摘している。