《賢者の石を探す錬金術師》
- 作者
- ジョセフ・ライト
- 制作年
- 1771年
- 素材
- キャンバス / 油絵具
- 寸法
- 127 × 101.6 cm
- 所蔵
- ダービー博物館・美術館
- 時代
- バロック・ロココ
ゴシック様式の丸天井の工房で、白いひげの老人がひざまずき、フラスコから噴き出す青白い光を見上げて両手を広げる。奥の卓では若い助手たちがろうそくのそばで振り返り、窓の外には雲間の月がのぞく。
概要
《賢者の石を探す錬金術師》(英: The Alchymist, in Search of the Philosopher's Stone, Discovers Phosphorus, and prays for the successful Conclusion of his operation, as was the custom of the Ancient Chymical Astrologers)は、ジョセフ・ライトが1771年に描いた油彩画である。縦127センチ、横101.6センチのキャンバスで、画家の故郷のダービー博物館・美術館が所蔵する。長い原題は「賢者の石を探す錬金術師がリンを発見し、古の化学占星術師の習いにならって作業の成就を祈る」という意味で、錬金術師が偶然リンを発見する瞬間を描く。ろうそくやランプの光に照らされた場面を集中して描いた、ライトの1765年から1773年の時期の作品である。
画面の読み解き
尖頭アーチの丸天井がかかる薄暗い工房で、灰色の長衣に緑の帯を締めた白いひげの老人が床にひざまずく。老人は両手を広げて顔を上げ、れんがの炉から延びる管の先のガラスのフラスコを見つめる。フラスコからは青白い光が噴き出し、老人の顔と衣、積み上げられた書物や地球儀を照らしている。左奥の卓では、ろうそくのそばに座る少年と立つ若者が、驚いたように振り返る。棚には壺や瓶が並び、柱には時計が掛かる。右上の格子窓の向こうには、雲に半ば隠れた月が見える。
技法・様式
所蔵館によれば、題材は1669年にドイツの錬金術師ヘニッヒ・ブラントが、発酵させた尿を使った実験でリンを発見した出来事である。ブラントもほかの錬金術師と同じく、卑金属を金に変えるという魔法の物質「賢者の石」を作ろうとしていた。所蔵館は、本作がピエール=ジョゼフ・マケの化学書にあるリンの製法の記述にもとづくとみられ、その本をライトに教えたのはリヴァプールの化学者マシュー・ターナーだったとする。画面の焦点は、フラスコの穴から青い光の筋となって噴き出すリンの最初の兆しにあり、錬金術師と助手たちはそれを驚きの目で見つめている。暗い室内を一つの強い光で照らし、人の顔や手を浮かび上がらせるキアロスクーロは、ライトが得意とした夜の場面の手法である。
来歴
本作の図柄は、1775年9月1日にウィリアム・ペザーが出版したメゾチントの版画によって広まった。版面の左下には「Josh. Wright Pinxt.(ジョセフ・ライト画)」、右下には「Wm. Pether fecit.(ウィリアム・ペザー作)」と刻まれ、クリーヴランド美術館がその一枚を所蔵している。所蔵館のダービー博物館・美術館は、世界最大のライトの作品群を持ち、画家の生涯と作品を紹介するジョセフ・ライト・ギャラリーで、その多くを常設展示している。
意義
クリーヴランド美術館は、版画の解説で、錬金術師の実験が偶然リンの発見にいたるこの瞬間を選んだことにより、想像の力が理性と観察を通して真の知識となる、啓蒙時代の力強い寓意が生まれたとする。一方、リンダ・ホール図書館の科学史家ウィリアム・アシュワースは、ひざまずいて祈るような老人の姿から、本作は科学の絵であると同時に宗教画のようにも読めるとする。所蔵館は、生命に欠かせない資源であるリンに目を向け、肥料として世界の食料を支える一方、18世紀には先のことを考えずにリン鉱石が採掘されたと述べ、限りある資源の中で暮らすという今日の課題に本作を結びつけている。