《花を持つ女》
黄色の地に緑の葉と花を散らした背景の前、赤い長椅子に、紺の晴れ着を着たタヒチの女性が座る。髪に白い花を挿し、膝の上の手には黄色い花を持つ。上端に題と署名が書き込まれる。
概要
《花を持つ女》(ヴァヒネ・ノ・テ・ティアレ)は、フランスの画家ポール・ゴーギャンが1891年に描いた油彩の肖像画で、コペンハーゲンのニイ・カールスベルグ・グリプトテク美術館が所蔵する。館の記録では、キャンバスに油彩で、縦70.5センチ、横46.5センチ。所蔵番号はMIN 1828。題のタヒチ語は「花の女」の意で、館はデンマーク語で《花を持つ女》と呼んでいる。ゴーギャンは1891年にタヒチに着き、本作はその年に描かれた。館と共同でゴーギャン展を開いたミラノの文化博物館(MUDEC)は、本作を、ゴーギャンがタヒチからフランスへ最初に送った絵の一つとしている。
画面の読み解き
縦長の画面の背景は明るい黄色で、そこに緑の葉と白や黄の花が模様のように散らされる。下の方には赤い長椅子の背がのぞき、そこに若いタヒチの女性が斜めに腰掛ける。女性は白い襟と袖口のついた紺色の長い晴れ着を着て、黒い髪を後ろで束ね、耳もとに白い花を挿している。顔はやや右を向いて画面の外へ目を向け、膝の上に重ねた手には黄色い花を一輪持つ。左上には題「Vahine no te Tiare」が、右上には「P. Gauguin 91」の署名と年記が書き込まれている。
技法・様式
館の解説によれば、女性の装いと画面の構成は、ルネサンス以来のヨーロッパの肖像画の伝統を思わせる。しかしその顔立ちは、ヨーロッパ風に見せられることを拒んでいる。平らな黄色の地に装飾的な草花を並べる背景と、背景の黄、長椅子の赤、衣の紺という強い色が、半身の女性像を囲む。
来歴
ゴーギャンは著書『ノア・ノア』で、タヒチの顔立ちの特徴を知るために、隣に住む若い女性の肖像を描きたいと長く望んでいたと書いている。女性は小屋に貼られた名画の写真を見に来て、マネの《オランピア》を美しいと言った。ゴーギャンがこっそり素描を始めると、女性は「アイタ(いやだ)」と言って逃げ帰ったが、1時間後に美しい服を着て、耳にティアレの花を挿して戻ってきた。館の解説も『ノア・ノア』のこの記述を引き、画家が女性を、ヨーロッパの基準ではきれいではないが美しい、と書いたことを紹介している。現在、館は世界有数のゴーギャンの作品群を持ち、2025年からの展示「ゴーギャンとキハラ――第一印象」の頁でも、本作が図版で紹介されている。
意義
館の解説によれば、ヨーロッパとその美術界に幻滅したゴーギャンは、太平洋の島々でやり直そうとした画家で、同時代のどの画家よりも「原始」への憧れにとらわれていた。館は近年、ゴーギャンが訪れた土地と文化をどのように描いたかを、植民地の歴史の文脈とともに問い直す展示を行っている。サモアと日本にルーツをもつ美術家ユキ・キハラの映像作品《第一印象:ポール・ゴーギャン》は、タヒチで描かれたゴーギャンの絵の複製をサモアのファアファフィネとファアタマの人々に見せ、そのモデルについて語り合ってもらう作品で、館の所蔵する二点も取り上げられている。