《聖アガタ》
暗い背景の前に、真珠の首飾りをつけた若い女性が、体をわずかに傾けて立ち、こちらを見る。黄色の袖、青緑の胴着、紫のスカートに赤いマントをまとい、両手で金属の盆を差し出す。
概要
《聖アガタ》は、スペインの画家フランシスコ・デ・スルバランが1635年から1640年頃に描いた油彩の宗教画で、モンペリエのファーブル美術館が所蔵する。館の記録では縦130センチ、横61センチのキャンバス。館は本作を収集の至宝の一つとし、1852年の購入以来、見る者を魅了し続けてきたと紹介する。いまは館の収蔵庫にある。
画面の読み解き
館の解説によれば、シチリアのカターニア出身の美しく裕福なアガタは、幼いころから生涯をキリストに捧げると決め、異教徒の長官クィンティアヌスの求婚を拒んだため、乳房を砕かれ切り取られる残酷な責め苦を受けながら信仰を告白した。対抗宗教改革の時代の大聖女で、スペインでは早くから崇められた。画面のアガタは、わずかに体をかがめて立ち、顔を見る者に向けて、その不吉な戦利品を、カラヴァッジョ派が好んだヘロディアやサロメのように差し出している。
技法・様式
館によれば、スルバランが描いた多くの聖女のなかで、本作は最も魅惑的で謎めいている。仕草は控えめで繊細、優美な表情には憂いが差す。抽象的な構図は丸い形と曲線の戯れで巧みに組み立てられ、明暗(キアロスクーロ)が手ざわりのある素材を引き立てる。鴨の羽色の胴着、深紅へと移る藤色のスカート、赤いマント、そして詩人ポール・ヴァレリーを魅了した明るい黄色の「レモン色の袖」と、色の取り合わせは珍しく大胆である。
来歴
館の来歴によれば、本作はおそらくセビーリャのメルセド・カルサダ修道院にあり、1810年のフランス軍によるセビーリャ占領の際に修道院が解体されて、セビーリャの王宮アルカサルに移された。その後パリのスールト元帥の収集に入り、1852年5月22日の元帥の死後の売立で、モンペリエ市が1540フランで購入した。館の収蔵品検索は、本作がサンクトペテルブルクの美術館にある《聖フェルナンド》とともに、所在のまだ定まらないセビーリャの一つの祭壇画に属していたと記す。所蔵番号は852.1.3。
意義
館は、様式化と夢想に、色彩と細部の写実が結びついたところに本作の忘れがたい魅力があるとし、スペイン黄金時代の宗教画を代表する一点と評している。