《女優ジャンヌ・サマリーの肖像》
薔薇色にけむる背景の前で、若い女優が頬杖をつき、青い目でこちらを見て微笑む。胸もとの開いた青緑のドレスに、金の腕輪が光る。左上には「Renoir. 77.」の署名がある。
概要
《女優ジャンヌ・サマリーの肖像》は、ピエール=オーギュスト・ルノワールが1877年に描いた油彩の肖像画で、モスクワのプーシキン美術館が所蔵する。館の記録では、キャンバスに油彩で、縦56センチ、横47センチ。所蔵番号はЖ-3405。左上に「Renoir. 77.」の署名と年記がある。館の解説によれば、女性像はルノワールの作品のなかで特別な位置を占め、心の明るさや清らかさ、穏やかな生の姿を体現するものだった。1870年代に画家が最も好んだモデルの一人が、パリの国立劇場コメディ・フランセーズの若い女優ジャンヌ・サマリーで、1877年、ルノワールは彼女の最も美しい肖像の一つとして本作を描いた。
画面の読み解き
館の解説によれば、女優は微笑みながらももの思いにふけるようすで、洗練された緑がかった青のドレスをまとい、軽やかな薔薇色の背景の前に姿を見せる。画家はモデルの最もよいところ、すなわち柔らかな優雅さ、生き生きとした知性、少しいたずらっぽい青い目のまなざし、そして「まわりのすべてを照らす」輝くような笑顔を強調したという。画面では、彼女は胸もとの大きく開いたドレスで頬杖をつき、手首には金の腕輪が光る。背景の右上には、青や緑の渦巻くような筆の跡が重なる。
技法・様式
日本語版ウィキペディアが引く2013年の『プーシキン美術館展』図録などによれば、ルノワールは軽やかな筆づかいで柔らかな肌や髪をかたちづくり、寒色を加えて立体感を出している。穏やかな微笑みは、まわりの温かな薔薇色の背景と響き合う。本作は1877年の第3回印象派展に、《ムーラン・ド・ラ・ギャレットの舞踏会》や《ぶらんこ》とともに出品された。作家エミール・ゾラは、展覧会の成功はサマリー嬢の、金髪で微笑む顔にあると称賛した一方で、現実離れした描き方に戸惑う人も多かったという。
来歴
館の解説によれば、サマリーは1875年にモリエールの『タルチュフ』のドリーヌ役でデビューし、結婚するまではルノワールのアトリエに近いフロショー通りに住んで、たびたび画家のためにポーズをとった。日本語版ウィキペディアによれば、本作は長くサマリーの夫ポール・ラガルドが持っていたが、1903年に画商デュラン=リュエルの手に渡り、翌年、モスクワの実業家イワン・モロゾフが購入した。館の来歴によれば、1919年まではモロゾフの収集にあり、その後は国立近代西洋美術館に移って、1948年にプーシキン美術館に入った。
意義
館のモロゾフ兄弟の収集の展覧会の紹介によれば、印象派はイワン・モロゾフにとって新しい美術の歴史の最初の道しるべであり、モネの《カプシーヌ大通り》やルノワールの本作のような、宣言ともいえる作品が収集の要となった。館は2021年、モロゾフ兄弟の収集を再びひとつに集める展覧会を2022年に開くと発表し、エルミタージュ美術館にあるサマリーの肖像と本作という、ルノワールによる二つの肖像をそこで「出会わせる」とした。