《レカミエ夫人の肖像》
がらんとした褐色の部屋で、白いギリシア風の服の若い女性が素足で寝椅子に身を預け、上体をひねってこちらを見る。左には背の高い燭台が立ち、足もとには小さな踏み台が置かれている。
概要
《レカミエ夫人の肖像》は、フランスの画家ジャック=ルイ・ダヴィッドが1800年に描いた油彩の肖像画で、パリのルーヴル美術館が所蔵する。縦174センチ、横244センチの横長の画面で、モデルは当時23歳のジュリエット・レカミエである。所蔵館によれば、夫人と夫の注文で1800年春に描き始められたが、その年の終わりに未完のまま残された。
画面の読み解き
ルーヴル美術館の2025年の展覧会の教育資料によれば、ジュリエットはギリシア風の白い服を着て素足で寝椅子に半ば身を横たえ、上体をひねって正面からこちらを見る。装飾は最小限に抑えられ、画面を縦に区切る燭台と、横の線をつくる踏み台と寝台だけが置かれる。いずれも古代風の家具で、モデルの古代趣味を示している。引き伸ばされた体の比例としなやかな線は、ルネサンスのヴィーナス像や古代彫刻を思わせるという。
技法・様式
同じ資料によれば、旧体制の名士たちを細密に描いてきたダヴィッドは、ここでは手数を抑え、肖像としては珍しい横長の画面を選んで、モデルとの間に距離をとった。構図も家具も服も簡素で、統領政府時代に装飾芸術や衣装に広まった古代風の流行を映している。レカミエ夫人はこの流行をいち早く取り入れてパリの社交界に広めた一人で、ルーヴル美術館には彼女の家具も残る。背景が描きかけのまま残されたことで、古代風の簡素さはいっそう際立ち、新しい市民層の洗練の手本となった。
来歴
所蔵館によれば、ダヴィッドは本作を1825年に没するまで手もとに置き、1820年からは弟子のグロに預けていた。1826年4月の画家の遺品の売り立てで6,180フランでルノルマンが落札し、同年12月に国王府に売られて、1827年1月8日にルーヴル美術館に入った。第二次世界大戦中はモンタル城に疎開した。2024年から2025年にかけてフランス美術館研究修復センター(C2RMF)で修復され、2025年10月から2026年1月の展覧会「ジャック=ルイ・ダヴィッド」に出品された。
意義
教育資料によれば、ジュリエットは裕福なリヨン出身の銀行家の妻で、パリの邸宅に開いたサロンにはリュシアン・ボナパルトやスタール夫人らが集った。ダヴィッドがなぜ注文を果たさなかったのかは分かっていない。夫人の好みに合わなかったとも、画家の仕事が遅すぎたともいわれ、1805年には弟子のジェラールが、若い夫人の魅力を引き立てるより伝統的な肖像を描いた(パリ、カルナヴァレ美術館)。同じ資料は本作を、肖像画の刷新についてのダヴィッドの考えと、変わらぬ古代への情熱を示す作品と位置づけている。