《婦人の肖像》
深い緑の背景の前で、黒髪を結い上げた女性が肩越しに振り返り、青い目をこちらに向ける。頬は赤く、白地に紫や黄の模様を散らした衣が、素早い筆づかいで描かれている。
概要
《婦人の肖像》は、オーストリアの画家グスタフ・クリムトが1916年から1917年にかけて描いた油彩の肖像画で、北イタリアのピアチェンツァにあるリッチ・オッディ近代美術館が所蔵する。館は本作を、館で最も名高い作品であり、その名声は作品をめぐる信じがたい出来事にも負っているとしている。描き直された二重の肖像であることが分かり、さらに1997年に盗まれ、22年後に美術館の外壁の中から見つかった。
画面の読み解き
深い緑の背景の前で、黒髪を高く結った若い女性が、体を右に向けたまま肩越しに振り返り、青い目でこちらを見る。頬は赤く染まり、唇も赤い。肩から胸を覆う白い衣には、紫や桃色、青、黄の模様が、短く素早い筆づかいで散らされている。館によれば、この頃のクリムトは、いわゆる「黄金の時代」のきらびやかな様式化を離れ、絵の具の運びはあまり贅を尽くさず、ほとんど急いだような筆触になっていった。そこには、表現主義に通じる、より感情的な取り組みがうかがえるという。
技法・様式
館によれば、1996年、地元の高校生クラウディア・マーガが、クリムトの画集の中で、失われたと考えられていた《少女の肖像》(1910年頃)に目を留め、館の作品と驚くほど似ていることに気づいた。その少女像は、1918年にドイツの雑誌に載った図版でしか知られていなかったが、顔立ちと姿勢は館の女性と同じで、髪型と服装だけが大きく違う。クリムトは、ベル・エポック風に装ったこの少女の絵の上に、背景と顔を残したまま、ほかの部分を大きく描き改めて本作を仕上げたのである。その後の調査もこれを裏づけた。館は、こうした作り替えはクリムトのほかの作品に例がないとしている。
来歴
館によれば、ジュゼッペ・リッチ・オッディは1925年に、ミラノの画商ルイジ・スコピニッチから本作を買い、はじめは一族の邸の玉突き室に飾った。1931年からは開館した美術館の外国の作家の部屋に掛けられていた。1997年2月22日、展覧会の準備のさなかに本作は姿を消し、盗みの手口は捜査でも明らかにならなかった。22年後の2019年12月10日、美術館の外壁沿いで庭仕事をしていた作業員が、鍵のない小さな扉の奥の空間からビニール袋に入った画布を見つけた。それが本作だった。
意義
館の歴史によれば、リッチ・オッディは1897年から主にイタリアの近代美術を集め、自ら建てた美術館を1931年に開いた。その収集は主に、すべてではないがイタリアの作家に向けられていた。館は、亡くなった1937年の時点で500点を超えた収集に名を連ねる作家として、最初にクリムトを挙げている。2026年には韓国ソウルの美術館に貸し出されたのち、同年4月28日に装いを新たにした館の展示室に戻ったと報じられている。