《ピエロ》
白い衣装の若い道化役者が、両腕をだらりと下げて正面を向いて立つ。丸い帽子、ひだ襟、ボタンの並ぶ上着、短めのズボン、薔薇色のリボンのついた靴。その足もとの低いところから、ロバに乗った男と仲間の役者たちがこちらをうかがう。
概要
《ピエロ》(仏: Pierrot, dit autrefois Gilles)は、アントワーヌ・ヴァトーが1718年から1719年頃に描いた油彩画である。縦184.3センチ、横155.7センチのキャンバスで、パリのルーヴル美術館が所蔵する。所蔵館によれば、かつては《ジル》と呼ばれた。イタリア喜劇の道化役ピエロに扮した役者を等身大で描いた作品で、同館を代表する名作の一つとされる一方、制作の経緯がほとんど分からず、長く研究者を悩ませてきた。
画面の読み解き
画面の中央に、白い衣装の若い男が正面を向いて立つ。丸い帽子をかぶり、ひだ襟をつけ、ボタンの並ぶ上着は袖が長くしわが寄る。ズボンはゆったりしているが丈が短く、靴には薔薇色のリボンが結ばれている。日本語版ウィキペディアによれば、背後の地面は一段低くなっており、左手でロバに乗っているのは笑われ役の医者、右手の赤い服の男は兵士、その隣の若い女性はヒロインのイザベラ、とさかのような帽子の男は恋人のレアンドルとされる。右端の木陰には牧神の像が立つ。
技法・様式
キャンバスに油彩で描かれる。白い衣装には灰や青、薄紅の色がのせられ、布のつやと重みが細かく描き分けられている。日本語版ウィキペディアによれば、舞台の役者をたびたび描いたヴァトーの作品の中でも、等身大の堂々とした正面向きの全身像である点で、ほかに例がない。人物の大きさから、芝居の宣伝の看板として描かれたとする見方が有力で、役者の肖像画、あるいは画家自身を重ねた像とする説もある。
来歴
所蔵館によれば、本作の18世紀の記録は残っておらず、ナポレオン1世の時代に画商が見つけ、1805年頃にルーヴル美術館の館長ヴィヴァン・ドノンが150フランで購入した。1826年のドノンの遺産の売り立てで甥のブリュネが手に入れ、キピエール侯爵を経て、収集家ルイ・ラ・カーズが1万6000フランで購入した。1869年、ラ・カーズの遺贈により同館に入る。2023年から2024年に修復され、所蔵番号はMI 1121。
意義
所蔵館によれば、本作は見つかるとすぐにヴァトーの重要作とみなされ、見る人や時代によって、いたずらっぽくも、皮肉にも、憂いを帯びても読まれてきた。その名声はマネやナダールの時代に18世紀美術への関心をよみがえらせ、ゴーティエやボードレール、ヴェルレーヌ、マネ、ピカソ、カルネらが本作から着想を得た。2024年から翌年には、修復の成果を示す展覧会が同館で開かれた。