《ヴァイレ・フィヨルドの聖ヨハネ祭の夜》
赤いケープをまとった女性が、こちらに背を向けて椅子に座り、暮れ残る空の下のフィヨルドを見わたしている。対岸の丘は暗く沈み、水面の向こうに小さな灯りがひとつ光る。空には細い雲が斜めに流れる。
概要
《ヴァイレ・フィヨルドの聖ヨハネ祭の夜》(デンマーク語: Skt. Hans Aften ved Vejle Fjord)は、ハーラル・スロット・メラーが1904年に描いた油彩画である。縦139.6センチ、横114.4センチ。デンマークのヴァイレ美術館が所蔵する。題の「聖ヨハネ祭の夜(スケト・ハンス・アフテン)」は、夏至の頃の6月23日の夜にあたる。所蔵館の解説によれば、本作は風景画であると同時に肖像画でもあり、描かれた女性はおそらく画家の妻で画家のアグネス・スロット・メラーである。
画面の読み解き
画面の左手前で、赤いケープをまとった女性が椅子に腰かけ、こちらに背を向けて、静かなフィヨルドを見わたしている。黒い髪は頭の後ろで大きくまとめられ、ケープの襟は高く立ち上がる。左下の隅には椅子の背が暗くのぞき、女性の前には手すりのような横木が画面を横切る。その向こうに暗い丘の稜線が重なり、さらに奥に灰色の水面と対岸の丘が広がる。水面の向こうには小さな灯りがひとつ光る。空は暮れ残る光に淡く明るみ、細くたなびく雲が斜めに流れている。
技法・様式
所蔵館は、この絵の気分を決めているのは色の使い方の珍しさ、とりわけ女性の目立つ赤いケープだと述べる。スロット・メラーは自然主義と象徴主義の両方を下地としており、画面の平らな広がりと色と象徴的な意味とが一体となっているという。デンマークの百科事典『レックス』は、本作が大きく単純化した面による近代的で記念碑的な形の言葉で描かれていると解説する。画面は、左の椅子の背に示される物質の側と、水の向こうの、光のきらめきを焦点とする精神の側とに分けられている。ロマン主義に学んだ後ろ姿の女性と明るい夏の夜が、画家が芸術に求めた精神性を伝えるとされる。
来歴
1904年に描かれ、現在はヴァイレ美術館が所蔵する。英語版ウィキペディアによれば、2016年4月、ヨーロッパの文化遺産を集めるポータル「ヨーロピアナ」の企画「ヨーロピアナ280」で、デンマークを代表する10点の美術作品の一つに選ばれた。
意義
本作は、写実の画家として出発したスロット・メラーが、象徴主義を経てたどり着いた画風をよく示す作品である。夏至の頃の明るい北欧の夜を背景に、後ろ姿の人物を通して、見る者を景色の向こうの世界へと誘う。