《微笑む騎士》
- 作者
- フランス・ハルス
- 制作年
- 1624年
- 素材
- キャンバス / 油絵具
- 寸法
- 83 × 67.3 cm
- 所蔵
- ウォレス・コレクション
- 時代
- バロック・ロココ
- 流派
- オランダ黄金時代の絵画
つば広の黒い帽子を傾け、跳ね上がった口ひげの若い男が、肘を張ってこちらを見る。大きなレースの襟の下には、色とりどりの刺繍で飾られた上着と、斜めにかけた黒い飾り帯。右上には26歳と1624年の銘がある。
概要
《微笑む騎士》(英: The Laughing Cavalier)は、オランダの画家フランス・ハルスが1624年に描いた油彩の肖像画である。縦83センチ、横67.3センチのキャンバスで、ロンドンのウォレス・コレクションが所蔵する。所蔵館はこれをハルスの最も名高い絵とし、館で最も愛されている作品と呼ぶ。日本語では《笑う騎士》とも呼ばれる。
画面の読み解き
灰色の壁を背に、等身大の若い男が上半身を斜めに構え、どこか気取った表情でこちらを見る。つば広の黒い帽子を傾けてかぶり、跳ね上がった口ひげと短いあごひげをたくわえる。首もとには大きなレースの襟が広がり、黒い上着の袖には金や赤、青の糸の刺繍がびっしりと施される。胸から腰には黒い飾り帯が斜めにかかり、左手を腰に当てて張り出した肘が、画面の手前に迫る。右上には「ÆTA SVÆ 26 / A° 1624」の銘があり、26歳、1624年の姿であることを示す。所蔵館によれば、男はオランダの上流層しか手にできなかった最新のフランスの流行をまとい、上着の刺繍は運、力、愛、徳にかかわる文様で飾られている。夫婦の対の肖像では男は妻のほうへ右を向くのがふつうで、左を向いた構えと伊達な装いから、独身の男とみられる。
技法・様式
キャンバスに油彩で描かれる。所蔵館は、モデルを生きているかのように見せるハルスの才能と、限られた色で描き分ける腕前を挙げる。とくに黒い飾り帯について、ファン・ゴッホが「フランス・ハルスは27種類もの黒を持っていたに違いない」と驚いたことを紹介している。館の目録によれば、本作は生き生きとした直接性と、描かれた衣装の精緻さで、ハルスの作品のなかでも際立つ。近くで見ると、袖の刺繍やレースは細い筆の線と点で描き起こされ、飾り帯の黒には光を受けた灰色の筆跡が重ねられている。
来歴
所蔵館によれば、モデルが誰か、どのように描かれたかはほとんどわかっていない。館の2021年の展覧会は、ハールレムの裕福な織物商ティーレマン・ローステルマン(1634年の肖像、クリーヴランド美術館)と同じ人物とする説を取り上げた。1865年、パリのプルタレス=ゴルジエ伯の売り立てで、館の創設者の一人である第4代ハートフォード侯爵が、ジェームズ・ド・ロスチャイルド男爵と競り合い、見積もりの6倍を超える5万1000フランで落札した。所蔵番号はP84で、館の大ギャラリーに展示されている。2023年秋には1888年以来初めて館の外に出て、ロンドン・ナショナル・ギャラリーとアムステルダム国立美術館のハルス展に貸し出された。
意義
所蔵館によれば、この購入は19世紀のハルスの復活に大きな役割を果たした。それまでハルスは忘れられかけていたが、売り立ての評判で絵も画家もたちまち有名になり、その作品の値は跳ね上がった。笑ってもおらず騎士でもないのに、1888年ごろに付いた覚えやすい題は一度も改められていない。広告や本、劇、ロンドンのタクシー運転手の試験にまで登場し、「美術史で最も美男子」とも呼ばれる。市民隊などの集団肖像画でも知られるハルスについて、館は2021年、一人で立つ男性の肖像だけを集めた初めての展覧会を開き、本作をその中心に据えた。