《白貂を抱く貴婦人》
- 作者
- レオナルド・ダ・ヴィンチ
- 制作年
- 1490年
- 素材
- クルミ材のパネル / 油絵具・テンペラ
- 寸法
- 53.4 × 39.3 cm
- 所蔵
- チャルトリスキ美術館 (クラクフ国立美術館の分館)
- 時代
- ルネサンス
- 流派
- 盛期ルネサンス
黒い背景の前で、若い女性が体を左へ向けたまま顔を右へ振り向け、腕に抱いた白い貂をなでている。額には細い黒の紐をめぐらせ、首には黒い珠の首飾りを長くかけている。
概要
《白貂を抱く貴婦人》(伊: Dama con l'ermellino)は、レオナルド・ダ・ヴィンチが1490年頃にミラノで描いた肖像画である。縦53.4センチ、横39.3センチのクルミ材の板に、油絵具とテンペラで描かれている。クラクフ国立美術館が所蔵し、分館のチャルトリスキ美術館に展示されている。モデルは、ミラノ公ルドヴィーコ・スフォルツァの愛人で宮廷の侍女だったチェチーリア・ガッレラーニ(1473年頃〜1536年)とされる。盛期ルネサンスの肖像画を代表する作品である。
画面の読み解き
胸から上を、体は画面の左へ向けたまま、顔だけを右へ振り向けた姿でとらえている。視線は画面の右の外へ向けられ、口もとには静かな笑みが浮かぶ。髪は中央で分けて顎の下まで撫でつけ、透ける薄布で覆い、額には細い黒の紐を巻く。首には黒い珠の首飾りを二重に長くかけ、四角く開いた胸元の赤い衣に、青い布を片方の肩からかけている。腕に抱かれた白い貂は、女性と同じ右の方へ首をもたげ、前足を上げる。女性の長い指の右手が、その背に添えられている。背景は黒一色で、左上に黄色の絵具で「LA BELE FERONIERE / LEONARD D'AWINCI」と書き込まれている。
技法・様式
所蔵館によれば、本来の背景には明るい肉付けがあり、人物が薄闇から浮かび上がるように描かれていたが、19世紀に塗り直された。左上の書き込みも、のちに加えられたものとみられる。体と顔を逆の方向へひねる姿勢は、真横や正面から描くことの多かった当時の肖像画に、動きと一瞬の気配を持ち込んだ。貂の筋肉や骨格、女性の手の関節までが観察に基づいて描き分けられ、光と影の移り変わりで形を立ち上がらせる描き方は、のちのスフマートへ向かうレオナルドの関心を示している。
来歴
所蔵館によれば、1800年ごろアダム・イェジ・チャルトリスキがイタリアで買い求め、1809年からはプワヴィにあった母イザベラの博物館で公開された。一族の収集とともに1830年代にパリのランベール館へ移り、1876年にクラクフへ戻る。第二次世界大戦中はドイツに奪われ、戦後、占領下ポーランドの総督ハンス・フランクのバイエルンの別荘で見つかって、1946年にポーランドへ返還された。2016年12月に国が収集を買い取り、クラクフ国立美術館の所蔵となった。所蔵番号MNK XII-209。日本では2001年から翌年にかけて、京都市美術館、松坂屋美術館、横浜美術館を巡回した展覧会で公開されている。
意義
所蔵館によれば、白貂は、1488年にナポリ王から白貂勲章を受けて「白い貂」とも呼ばれたルドヴィーコ公を指し、同時に、ギリシア語で貂を意味する語に似たガッレラーニの姓にもかけられている。白貂は純潔と節度の象徴でもあった。一匹の動物に、モデルの名と、彼女を寵愛した公と、美徳とを重ね合わせた点に、宮廷の知的な遊びと、レオナルドの肖像画の新しさとがよく表れている。