《ド・ブロイ公爵夫人の肖像》
- 作者
- ドミニク・アングル
- 制作年
- 1851–1853年
- 素材
- キャンバス / 油絵具
- 寸法
- 121.3 × 90.8 cm
- 所蔵
- メトロポリタン美術館 (1975.1.186)
- 時代
- 写実・印象派
- 流派
- 新古典主義
灰色の壁と青いダマスク織の長椅子を背に、青いサテンのドレスの若い女性が、肘掛け椅子の背に腕を預けて立つ。髪には羽根と青いリボンの飾りをつけ、視線は見る者の脇を抜けて遠くへ向かう。
概要
《ド・ブロイ公爵夫人の肖像》は、フランスの画家ドミニク・アングルが1851年から1853年にかけて描いた油彩の肖像画で、ニューヨークのメトロポリタン美術館がロバート・レーマン・コレクションの一点として所蔵する。縦121.3センチ、横90.8センチで、中央の左に「J. INGRES, Pit 1853」と署名と年記がある。モデルは、のちのブロイ公アルベールの妻ポーリーヌ(1825〜1860)。所蔵館によれば、アングルが注文を受けて描いた最後の肖像画である。
画面の読み解き
所蔵館の目録によれば、公妃はボタン留めの青いダマスク織の長椅子と、金の縁取りのある淡い灰色の壁を背に、膝上までの姿で立つ。左腕を豪華な張りの肘掛け椅子の背に預け、右腕は胸の前に回して、手は左袖のレースのひだに隠れる。きらめく青いサテンのイブニング・ドレスの裾は画面の左下をほとんど占め、首を左に傾けた彼女の物憂げな視線は、見る者の脇を抜けて画面の外へ向かう。椅子には金刺繍のショール、白い手袋、ビロードのケープ、螺鈿と七宝の扇が置かれ、これから夜の外出に向かうところと考えられている。右上にはブロイ家と生家の紋章、家訓「Pour l'avenir(未来のために)」が描かれる。
技法・様式
目録によれば、ドレスの描写はアングルの技巧の頂点の一つで、ブリュッセルのボビンレースとみられる袖のレースは、絵具で描いたというより画布に貼りつけたように見える。サテンの襞と光沢、椅子の花模様の絹のダマスク、ショールの白いカシミア、真珠や金、七宝の宝飾が、公妃の白い肌や細い指と響き合うよう周到に組み立てられている。準備素描は5点が残り、雇ったモデルを使った裸体の習作もある。赤外線の調査では、方眼を引いた素描を画布に写した線が確かめられた。
来歴
目録によれば、夫のアルベール・ド・ブロイ公子は、アングルが描いた姉のオーソンヴィル伯爵夫人の肖像に感心して、妻の肖像を依頼したとみられる。アングルは肖像画を嫌っており、1852年の手紙で「この肖像にはどれほど苦しめられることか」と嘆いている。1853年6月に完成し、1855年のパリ万国博覧会に出品された。公妃は5人の息子をもうけたのち、1860年に35歳で結核のため亡くなり、夫は肖像をカーテンの陰に隠したと伝えられる。本作は80年以上ブロイ家に伝わり、1958年にウィルデンスタイン画廊を通じてロバート・レーマンが購入した。
意義
目録によれば、出品当時、作家テオフィル・ゴーティエは「現代の貴婦人の魅力をこれほど再現した」と称え、エドモン・アブーも、絹を描く名手ミュラーの絹さえ市場で買った品に見えると評した。オーソンヴィル伯爵夫人の肖像もすでにアメリカのフリック・コレクションに渡っており、本作がニューヨークに着いたことで、ブロイ家の二つの肖像が同じ町で「再会」することになった。