《ガブリエル・コットの肖像》
暗い背景の中で、栗色の巻き毛の娘が肩越しにこちらを振り向き、かすかにほほえむ。灰色がかった瞳、ほのかに赤らむ頬、白いレースとリボンの襟。左下には年記と署名が小さく記されている。
概要
《ガブリエル・コットの肖像》は、ウィリアム・アドルフ・ブグローが1890年に描いた油彩の肖像画である。縦45.5センチ、横38センチの小さなキャンバスで、井内コレクションから東京の国立西洋美術館に寄託されている。英語版ウィキペディアによれば、モデルのガブリエル・コットは、ブグローの最も名高い弟子だった画家ピエール=オーギュスト・コットの娘で、本作はブグローが注文によらずに描いた数少ない肖像画の一つとされる。
画面の読み解き
暗い背景の中で、娘は体を右に向けたまま、肩越しにこちらへ振り向く。栗色の髪はゆるくまとめられ、額やうなじに巻き毛がこぼれる。灰色がかった瞳がまっすぐ見る者をとらえ、口もとにはかすかな笑みが浮かぶ。肩には白いレースの襟と大きなリボンが重なり、その白が肌の明るさを引き立てる。所蔵館の目録によれば、画面左下に「1890 W-BOUGUEREAU」の年記と署名がある。
技法・様式
キャンバスに油彩で描かれる。筆の跡を残さない滑らかな仕上げで、頬や耳の赤み、肌の透けるような質感、レースの繊細な模様までを描き分けている。背景を暗く沈めて人物だけに光を集める構成は、肖像に親密な雰囲気を与えている。英語版ウィキペディアによれば、本作は別の作品のための習作として描き始められたが、ブグローはガブリエルの魅力にひかれて、一枚の肖像に仕上げることにしたという。
来歴
所蔵館の目録によれば、本作はデュレ夫人とコット家に伝わったのち、1983年5月25日にニューヨークのフィリップスで売られ、アメリカの個人蔵を経て、1998年11月10日にニューヨークのサザビーズで競売にかけられた。その後、ニュージャージーのフレッド・ロスとシェリー・ロスのコレクション、日本の個人蔵を経て、2022年9月22日から国立西洋美術館に寄託されている。所蔵番号DEP.2022-0020。2026年10月時点では展示されていない。
意義
所蔵館の目録によれば、本作は2023年から2024年に同館で開かれた「もうひとつの19世紀—ブーグロー、ミレイとアカデミーの画家たち」に、カタログ番号1として出品された。師弟の家族の親しい関係のなかで生まれた、アカデミック美術の画家の私的な一面を伝える。