《キリストのブリュッセル入城》
- 作者
- ジェームズ・アンソール
- 制作年
- 1888年
- 素材
- キャンバス / 油絵具
- 寸法
- 252.6 × 431 cm
- 所蔵
- J・ポール・ゲティ美術館
- 時代
- 世紀末〜ポスト印象
「VIVE LA SOCIALE」と書かれた赤い横断幕の下、仮面をかぶった人々や楽隊、旗が画面いっぱいに押し寄せる。群衆の中ほどでは光輪をいただいたキリストがロバに乗って進むが、ほとんど誰も目を向けていない。
概要
《キリストのブリュッセル入城》(英: Christ's Entry into Brussels in 1889)は、ベルギーの画家ジェームズ・アンソールが1888年に描いた油彩画である。縦252.6センチ、横431センチの巨大なキャンバスに、謝肉祭の行列のさなかに現代のブリュッセルへ入るキリストを描いた作品で、ロサンゼルスのJ・ポール・ゲティ美術館が所蔵する。
画面の読み解き
館の解説によれば、アンソールはこの場面で宗教と政治、芸術を一度に取り上げた。アンソールの描く社会は、見る者を踏みつぶさんばかりに押し寄せる群衆で、粗野で醜く、混沌として人間らしさを失った、仮面と詐欺師、道化、カリカチュアの海である。群衆をなすのは、公人や歴史上の人物、寓意の人物、そして画家の家族や友人たちである。混乱の中心にいる光輪のキリストは一部が画家自身の自画像で、ほとんど顧みられず、群れのような近代社会の大衆のなかで危うく孤立する幻視者として描かれる。
技法・様式
キャンバスに油彩で描かれる。館によれば、フランスの点描の様式に応じるように、アンソールはパレットナイフやへら、筆の両端を使って、色の斑点を自由に置いていった。制作のために何点もの準備素描を描き、そのうちの1点も館が所蔵する。キリストは貧しく虐げられた人々の政治的な代弁者、真の宗教のつつましい指導者として、司教の衣装で鼓笛隊長の指揮棒を持ち、熱狂する群衆を先導する無神論の社会改革者エミール・リトレと対置されている。
来歴
館によれば、アンソールが創立に加わった芸術家の団体「20人展(レ・ヴァン)」に出品を拒まれ、本作は1929年まで、40年以上も公開されなかった。画家は生涯、本作を自宅兼アトリエに目立つように掛けていた。館の来歴によれば、1949年の画家の死後に姪アレクサンドラ・ダヴリュイが相続し、1950年にグスターヴ・ネレンスが市営カジノのために購入した。1953年にルイ・フランク、1969年にその財団ソシンデック(リヒテンシュタインのファドゥーツ)の所有となり、1987年にロンドンのアレックス・リード&ルフェーヴル画廊を通じて館が購入した。所蔵番号は87.PA.96。
意義
館の教育用の解説によれば、本作が描かれた頃のブリュッセルは、国王レオポルド2世のもとで静かな町から近代都市へと変わりつつあり、コンゴ自由国での強制労働から得た利益が、新しい建築や都市の基盤整備の資金となっていた。1860年から1890年にかけて経済は農業から工業へ移り、都市は過密になって、貧しい人々は町の西の外れへ追いやられた。館は、攻撃的で絵画的な様式と、公的なものと深く個人的なものの融合によって、本作が20世紀の表現主義の先駆けとなったとする。