《黒人女性》
- 作者
- アンナ・ビリンスカ
- 制作年
- 1884年
- 素材
- キャンバス / 油絵具
- 寸法
- 63 × 48.5 cm
- 所蔵
- ワルシャワ国立美術館
- 時代
- 世紀末〜ポスト印象
- 流派
- アカデミック美術
黄みを帯びた無地の壁を背に、片胸をあらわにした黒人の女性が、金の首飾りと耳飾りをつけて斜め上を見つめる。左下には日本の扇がのぞき、右上には画家の署名と「パリ 1884」の年記がある。
概要
《黒人女性》は、ポーランドの画家アンナ・ビリンスカが1884年にパリで描いた油彩画である。縦63センチ、横48.5センチ。片胸をあらわにした黒人の女性モデルを、間近からやや見上げるように描いた半身像で、ワルシャワ国立美術館が所蔵する。館は、画家自身が付けたポーランド語の題 Murzynka(黒人の女を指す古い語)を「歴史的な題」と注記して掲げており、同館の学芸員は「女性の習作(Studium kobiety)」の題でも紹介している。英語では「Black Woman」と呼ばれる。
画面の読み解き
館の教育部の解説によれば、無地の壁を背に、女性が狭い画面に収められている。艶やかなビロードのような肌とあらわな胸が目を引き、首には金の首飾りが光る。うつろな眼差しは見る者の頭上の空間へ向けられ、表情はどこか自信なげで、恥じらっているようにも見える。解説は、モデルが置かれた状況は彼女にとって心地よいものではなく、その感情が理想化されずに写実的に描かれていると述べる。左下には、モデルの前にかざされた日本の扇がのぞく。これは当時のパリで盛んだった日本の文化と美術への熱狂、ジャポニスムの表れだという。右上に「Anna Bilińska / Paryż 1884」の署名と年記がある。
技法・様式
キャンバスに油彩で描かれる。館の解説によれば、素描は正確で、色のついた下塗りの上に絵具を薄く延ばし、アカデミーの「仕上げ(フィニ)」の原則どおり丁寧に仕上げている。画家がパリの私立画塾アカデミー・ジュリアンで、ロベール=フルーリのアトリエに学んでいた時期の作である。当時の公立の美術学校は男性しか受け入れず、この画塾は女性が裸のモデルを描ける唯一の場だった。狭い画角、単色の背景、やや下からの視点から、本作は台に座ったモデルを学生が囲む写生の場を忠実に記録した絵と考えられている。学芸員レナタ・ヒゲルスベルゲルは、この視点は狭いアトリエの制約から生まれたのかもしれないとし、80年前に描かれルーヴル美術館に展示されていた、マリー=ギユミーヌ・ブノワの黒人女性の肖像を画家が踏まえた可能性も挙げる。
来歴
館によれば、収集家ドミニク・ヴィトケ=イェジェフスキが1916年より前に購入し、1933年8月にそのコレクションとともに館に寄託された。館は1939年6月に寄託から買い取ったが、第二次世界大戦中に略奪されて行方が分からなくなった。1953年7月にミュンヘンの古美術店で売られてドイツのシュヴァインフルトのゲオルク・シェーファー・コレクションに入り、2011年にベルリンのグリーゼバッハの競売に出された。同年12月、レオポルト・クローネンベルク銀行財団の援助で館が買い戻し、2012年3月に館へ戻った。所蔵番号はMP 5531。19世紀美術ギャラリーの第110室に展示されている。
意義
館の解説は本作を、早世した優れた画家の数少ない作品であり、戦争で失われて幸いにも取り戻された作品であり、何より絵画の技の見事な手本として重要だとする。館の教育資料によれば、研究者はこの絵に、画家が当時抱いていた社会問題への考えも読み取っている。画家は日記に、女性の人生のさまざまな段階を描く連作「女性」の構想と、悩む女性を一人でも助けられたらという願いを書き残した。館は2021年の回顧展「芸術家 アンナ・ビリンスカ 1854–1893」で本作を展示した。