《庭の戸口で、画家の妻》
- 作者
- ラウリツ・アナセン・リング
- 制作年
- 1897年
- 素材
- キャンバス / 油絵具
- 寸法
- 191 × 144 cm
- 所蔵
- デンマーク国立美術館
- 時代
- 世紀末〜ポスト印象
白いドレスの女性が、庭に開いた戸口の柱にもたれて立ち、腹に手を当てて外を見下ろす。戸の外には木の階段と縁台があり、その向こうでリンゴの木が白い花を咲かせている。右手前には鉢植えの小さな木が立つ。
概要
《庭の戸口で、画家の妻》(デンマーク語: I havedøren. Kunstnerens hustru)は、ラウリツ・アナセン・リングが1897年に描いた油彩画である。縦191センチ、横144センチ。コペンハーゲンのデンマーク国立美術館が所蔵する。モデルは前年の1896年に画家と結婚した妻シグリズ・ケーラー(1874〜1923年)で、デンマークの百科事典『レックス』によれば、陶芸家で画家でもあった。所蔵館は、多くの美術史家とともに、本作を身ごもった妻への愛の告白と読み、春の気配が愛の成就のしるしになっているとする。
画面の読み解き
画面の左寄りで、シグリズが開いた戸の柱にもたれ、片手を腹に当てて外を見下ろしている。髪を結い上げ、白い襟と黄色い胸当てのついた淡い色の長いドレスを着て、腰には黄色い帯を締める。左端には房飾りのついた赤茶色のカーテンが下がる。戸の外には白い手すりのついた木の階段と縁台があり、その先の庭ではリンゴの木々が白い花を咲かせ、若葉の緑が画面の上半分を覆う。中央では、ねじれた太い枝が斜めに突き出している。右手前の縁台には、鉢植えの小さな木が細い幹を立てている。
技法・様式
所蔵館は、画面の中央でひときわ目を引く節くれだった枝を、まわりと調和しない要素として指摘する。季節は春で、戸口の女性から花咲く庭のリンゴの木まで、ほかのすべてが成長と豊かさにあふれている。そのなかで画家は、庭の眺めを狭く限り、黒い節と発育の止まった枝によって、生の短さを思い出させるメメント・モリを持ち込んだ。館は本作を、現実の眺めとして信じられる写実でありながら、様式化や意図的な省略と付け加えによって、より象徴的な読みを誘うリングの画風の典型と述べる。
来歴
画面には「LA Ring 1897」の署名と年記がある。1924年にデンマーク国立美術館の所蔵となり、所蔵番号はKMS3716。2016年から2017年にかけてはヘルシンキのアテネウム美術館などを巡回した「北欧のジャポノマニア 1875〜1918」展に、2019年から2020年にはアメリカのシアトルなどでの L.A.リングの回顧展に出品された。
意義
所蔵館によれば、無神論者だったリングは、生とその反対の死を多くの作品で描いた。本作では、シグリズの身ごもった腹と、ねじれて伸びの止まった幹や枝とを対比させ、人と自然に芽生える命のもろさを思わせる。館はまた、本作を1900年前後にデンマークの画家たちが描いた妻や女性の大きな肖像画の一つとし、母であることだけを称えたロマン主義の女性観から離れ、身体と知性をあわせ持つ自立した落ち着いた女性像へ向かう時代の見方を映していると解説する。