《眠る女》
- 作者
- ヨハネス・フェルメール
- 制作年
- 1656–1657年
- 素材
- キャンバス / 油絵具
- 寸法
- 87.6 × 76.5 cm
- 所蔵
- メトロポリタン美術館
- 時代
- バロック・ロココ
- 流派
- オランダ黄金時代の絵画
ヨハネス・フェルメールが1656〜1657年頃に描いた油彩画。果物の鉢や水差しの並ぶテーブルの前で、頬杖をついて眠る若い女性を描いた、室内の一人の女性という主題にフェルメールが初めて取り組んだ作品の一つである。
概要
《眠る女》(英: A Maid Asleep)は、オランダの画家ヨハネス・フェルメールが1656〜1657年頃に描いた油彩画である。東洋風の厚い絨毯を掛けたテーブルの前で、若い女性が頬杖をつき、目を閉じてまどろんでいる。背後の扉は開け放たれ、奥の部屋がのぞく。のちに窓辺の光に満ちた室内画で知られるフェルメールが、一人の女性のいる室内という主題に初めて取り組んだ作品の一つで、ニューヨークのメトロポリタン美術館が所蔵する。
来歴
フェルメールの最大の支援者だったデルフトのピーテル・ファン・ライフェンの収集にあったと考えられ、1696年にアムステルダムで開かれたヤコブ・ディシウスの遺産の競売に、ほかのフェルメール作品とともに出品された。このときの目録には「テーブルで眠る酔った女中」と記されている。その後の行方は長く分からず、19世紀後半にパリの収集家たちの手を経て、1908年にニューヨークの実業家ベンジャミン・アルトマンが購入し、1913年に同館に遺贈された。アルトマンの遺言により、館外への貸し出しは認められていない。
画面の読み解き
女性の前のテーブルには、果物を盛った陶器の鉢や白い水差しが置かれ、絨毯は大きく波打ってしわが寄っている。メトロポリタン美術館は、倒れたグラスと乱れた絨毯が、少し前までいた訪問者の気配を伝えると説明する。X線調査では、フェルメールが初め扉口に男性の姿を描き、のちに消したことがわかっている。右手前には、クッションを置いた椅子が斜めに残される。女性の背後の壁には、暗くて見えにくいが、キューピッドを描いたとされる絵が掛けられ、愛の主題をほのめかす。頬杖をついて目を閉じる姿は、居眠りとも、恋の物思いとも読める。
技法・様式
カンヴァスに油彩で描かれている。主人の目を盗んで居眠りする女中は、17世紀オランダの風俗画で好まれた主題で、ニコラース・マースの《怠惰な召使い》(1655年、ロンドン・ナショナル・ギャラリー)のように、怠けを戒める教訓を込めて描かれることが多かった。フェルメールも奥の部屋や壁の絵といったマースのモチーフを取り入れたが、説明的な人物を消し去り、光と色、ものの質感の探究へと画面を変えた。壁の絵が場面の意味をほのめかす画中画の手法は、後の室内画でもくり返し用いられる。
意義
館は、フェルメールがありふれた場面を、どんな教訓よりも光と色と質感の探究が勝る画面へと変えたと評している。物語をはっきり語らず、見る者の想像にゆだねるこの作品は、手紙を読む女性や楽器を奏でる女性など、静かな室内に一人の女性を描く後の作品群の出発点となった。描いた人物を消して意味を曖昧にした画面には、後年の作品に通じる控えめで謎めいた詩情がすでに表れている。メトロポリタン美術館は本作を含むフェルメールの作品5点を所蔵し、世界で最も多くのフェルメールをもつ美術館である。