《セビーリャの水売り》
茶色の粗い上着を着た老いた水売りが、横顔を見せて少年に水のグラスを差し出す。手前には水滴の光る大きな素焼きの甕、背後の暗がりには、杯を傾けてこちらを見る若い男がいる。
概要
《セビーリャの水売り》は、スペインの画家ディエゴ・ベラスケスが故郷セビーリャで描いた油彩画で、ロンドンのアプスリー・ハウスが所蔵する。館を管理するイングリッシュ・ヘリテッジは制作年を1617年から1623年頃とし、別の解説では1620年、画家が20歳前後のころの作とする。同団体は本作を17世紀でもっとも名高い絵画の一つとし、ベラスケスの初期のボデゴンのなかでもっとも有名な作品と位置づけている。
画面の読み解き
暗い背景を背に、茶色の粗い上着を着た老いた水売りが横顔を見せ、左の少年に水を満たしたグラスを差し出す。少年もグラスに手を添えるが、二人の視線は交わらない。その間の暗がりでは、若い男が杯を傾けながらこちらを見ている。手前には大きな素焼きの甕が置かれ、表面には水滴が光る。左の机にも小さな甕と器がある。イングリッシュ・ヘリテッジによれば、水道の無い17世紀の町で水売りは見慣れた存在だった。少年の受け取るグラスは上質で、ヴェネツィア製かもしれず、少年が裕福な家の者であることを示すという。
技法・様式
イングリッシュ・ヘリテッジによれば、ベラスケスの初期作品は、飲食の場を中心にした日常の情景を、強い明暗の対比で描いている。これがボデゴンと呼ばれる作品群で、イタリアのカラヴァッジョの影響を強く受けている。本作で画家は、グラス、焼き物、布という異なる質感をすべて描き分け、光を巧みに使って老人と少年の顔を浮かび上がらせている。左から差す光は、甕の表面の水滴や、透きとおったグラスの縁も照らし出す。
来歴
イングリッシュ・ヘリテッジによれば、本作はスペイン王室のコレクションに入っていた。1813年、ナポレオンの兄でスペイン王となっていたジョゼフ・ボナパルトがビトリアの戦いに敗れて逃れる際、運び出した王室の絵画が戦場で回収され、ウェリントン公爵の手に渡った。これらの絵はのちにスペイン国王フェルナンド7世から正式に公爵へ贈られた。回収された約200点のうち83点が、いまもアプスリー・ハウスに掛かっている。1947年の法律で邸宅と初代公爵の収集のかなりの部分が国に移り、1952年からヴィクトリア&アルバート博物館が運営したのち、2004年にイングリッシュ・ヘリテッジに引き継がれた。
意義
本作は、若いベラスケスが、宗教画や肖像画ではない庶民の日常の情景に、静物と人物の写実を集中させたことを示す作品である。美術史の解説サイト Smarthistory(2015年)は、老人・青年・少年の三人を「人生の三つの年代」と読む見方を紹介し、ペテン師や物乞いとして描かれがちだった水売りに、ベラスケスが記念碑的な威厳を与えたと述べている。イングリッシュ・ヘリテッジは、こうした名作の収集が、ウェリントン公爵を同時代の富と教養を備えた人物として示したと説明している。