《音楽》
- 作者
- アンリ・マティス
- 制作年
- 1910年
- 素材
- キャンバス / 油絵具
- 寸法
- 260 × 389 cm
- 所蔵
- エルミタージュ美術館
- 時代
- 20世紀
濃い青の空と緑の丘だけの画面に、赤い裸の人物が5人いる。左端にはヴァイオリンを弾く若者が立ち、その隣で一人が笛を吹き、右の3人はひざを抱えて座り、口を開けて歌っている。
概要
《音楽》(仏: La Musique)は、フランスの画家アンリ・マティスが1910年に完成させた油彩画である。縦260センチ、横389センチの大画面で、サンクトペテルブルクのエルミタージュ美術館が所蔵する。ニューヨーク近代美術館によれば、1909年3月、ロシアの実業家で収集家のセルゲイ・シチューキンが、《ダンス》と対になる2枚の大きな装飾画として注文した。
画面の読み解き
画面は、上の濃い青の空と下の緑の丘、朱に近い赤で塗られた5人の裸の人物だけでできている。左端には細長い体の若者が正面を向いて立ち、ヴァイオリンを肩に当てて弾いている。その右では、一人が丘に腰を下ろして片ひざを立て、笛を吹く。中央と右の3人はひざを抱えて座り、目を見開いて口を丸く開け、歌っているように見える。人物は互いにほとんど目を合わせず、丘の上に間を空けてばらばらに置かれている。コステネヴィチによれば、マティスは1909年4月、批評家シャルル・エティエンヌに、階段を上った2階はもう家の内側で、その精神と静けさの中に、夢中になった人々の音楽の場面が見えると語った。右下に「HENRI-MATISSE 1910」の署名と年記がある。
技法・様式
キャンバスに油彩で、人物の輪郭を暗い線で囲み、空、丘、体をほとんど陰影のない平らな色の面として塗っている。奥行きや影はほとんど描かれず、人物の大きさも遠近に従っていない。ニューヨーク近代美術館は、対の《ダンス》が初めて展示されたとき、人体の単純化と遠近法の徹底した排除が、下手である、あるいはわざと粗野であると攻撃されたが、マティスはそこに「生命とリズム」を感じていたとする。
来歴
美術史家アルベルト・コステネヴィチの論文(シカゴ美術館の研究誌、1990年)によれば、シチューキンは1909年3月31日の手紙で、裸の人物の主題を階段に掛ける決意を伝え、家では毎冬クラシックの演奏会を10回開くので、2枚目は音楽の主題がよいと求めた。1910年10月のサロン・ドートンヌに《ダンス》と並んで出ると大きな騒ぎになり、シチューキンは一度は受け取りを断って、笛を吹く人物の手直しを求めたが、画家は応じなかった。結局は2枚ともモスクワへ送らせ、邸宅の階段に掛けた。シチューキンはのちに、笛を吹く人物の性器を赤い絵具で塗りつぶさせた。マティスは1934年に元に戻すよう手紙で求め、覆われた部分は1988年11月にエルミタージュ美術館の修復家によって現れた。
意義
ルイ・ヴィトン財団によれば、シチューキンの収集は1918年にレーニンによって国有化され、近代西洋美術館で公開されたのち、1948年にモスクワのプーシキン美術館とエルミタージュ美術館に分けられた。コステネヴィチによれば、《ダンス》と本作は1948年にエルミタージュ美術館に入ったが、公開は1958年からで、はじめはもとの配置にならい、冬宮の階段に向かい合わせに掛けられた。