《十戒の石板を破壊するモーセ》
- 作者
- レンブラント・ファン・レイン
- 制作年
- 1659年
- 素材
- キャンバス / 油絵具
- 寸法
- 168.1 × 136.5 cm
- 所蔵
- ベルリン絵画館
- 時代
- バロック・ロココ
- 流派
- オランダ黄金時代の絵画
茶色の岩山を背に、髭をたくわえたモーセが二枚の石板を頭の上に高く掲げる。石板にはヘブライ文字で十戒が刻まれ、光は上げた両腕に囲まれた顔を照らす。表情に怒りは見えず、どこか憂いを帯びている。
概要
《十戒の石板を破壊するモーセ》は、オランダの画家レンブラント・ファン・レインが1659年に描いた油彩の宗教画で、ベルリン絵画館が所蔵する。館の題は《律法の石板を持つモーセ》で、《律法の石板を砕くモーセ》の題も併記されている。館の記録では、キャンバスに油彩で、画面は縦168.1センチ、横136.5センチ。所蔵番号は811。「Rembrandt f 1659」の署名と年記がある。
画面の読み解き
館の刊行物『ベルリン絵画館 ヨーロッパ絵画の傑作200点』(2019年)の解説によれば、旧約聖書の「出エジプト記」で、シナイ山から神の律法の石板を携えて下りてきたモーセは、イスラエルの民が金の子牛のまわりで踊っているのを見て怒り、石板を投げて山のふもとで砕いた。民が罰を受けて悔い改めると、神はモーセに、最初のものと同じ二枚の石板を切り出すよう命じた。本作のモーセは、ヘブライ文字で十戒の記された二枚の石板を頭上高く掲げている。上げた両腕と暗い石板に囲まれ、光に照らされた頭が構図の中心をなす。額の上の髪は角のようにかたどられている。
技法・様式
同じ解説によれば、レンブラントはこの晩年の作で、下から見上げる、等身大より少し大きな四分の三の身の人物を、画面の手前の縁にすぐ立たせる型を選び、人物にとりわけ強い存在感を与えた。目を引く光の扱いが、その印象をさらに強めている。描いた場面については、石板を砕く瞬間か、新しい石板を示すところかが長く議論され、決着はついていない。今は見えない最初の構図(ペンティメント)では、石板はもっと左奥に傾いており、明らかに砕く姿勢を示していた。それを頭上にまっすぐ掲げる形に直したことは、むしろ石板を示す場面を思わせる。怒りや激しさよりも憂いを映すような顔も、この読みに合うという。
来歴
館の記録によれば、本作は1829年から1830年にかけて、プロイセン王家の城館から移されて館に入った。解説によれば、画面がほとんど単色に見えるのは、顔料の強い灰色化とワニスの黄変によるところが大きく、もとはずっと色彩が豊かで明暗の対比も強かった。マントはおそらく濃い紫色だった。もとの画面はずっと大きかったとする説もあったが、館の解説はこれを否定している。
意義
館の解説によれば、聖書では、二度目に石板を授かって民に示したとき、モーセの顔は「輝いて」いた。ヘブライ語で「輝く」にあたる語は「角」を表す語と近いため、ラテン語訳のウルガタ聖書には「角」の意味が採られ、中世以来、角のあるモーセが数多く描かれてきた。レンブラントはこの伝統を取り入れ、髪を角のようにかたどって自然なかたちで表した。石板のヘブライ語の文字はほとんど誤りなく写されており、画家の非常に丁寧で正確な仕事ぶりを示している。