《浜辺のインゲル》
- 作者
- エドヴァルド・ムンク
- 制作年
- 1889年
- 素材
- キャンバス / 油絵具
- 寸法
- 123.6 × 158.9 cm
- 所蔵
- コーデ・ベルゲン美術館
- 時代
- 世紀末〜ポスト印象
丸く大きな岩の転がる浜辺に、白い服の若い女性が横を向いて座り、黄色い麦わら帽子を膝の上で両手に持つ。背後には青紫の海が広がり、水平線は空にまぎれている。
概要
《浜辺のインゲル》(ノルウェー語: Sommernatt. Inger på stranden)は、ノルウェーの画家エドヴァルド・ムンクが1889年に描いた油彩画である。縦123.6センチ、横158.9センチのキャンバスに、オスロ・フィヨルドの町オースゴールストランの浜辺に座る妹インゲルを描いた肖像画で、コーデ・ベルゲン美術館が所蔵する。「夏の夜」の題でも知られる。
画面の読み解き
館の目録によれば、大きな岩の並ぶ浜辺に、白いドレスの若い女性が黄色い麦わら帽子を手に、左を向いて座る。背後には青い海が広がる。英語版ウィキペディアによれば、明るい白い服は、緑の苔むした岩や、青と紫の海と対照をなし、北欧の夏の夜を感じさせる。人の暮らしをうかがわせるのは、背後のわずかな壺と一艘の漁船だけである。ムンクは1884年の室内画《朝》で、寝台の端に座る少女に似たポーズを使っている。
技法・様式
キャンバスに油彩で描かれ、「E. Munch 1889」と署名がある。2024年にロンドンのコートールド・ギャラリーで館の所蔵品を紹介した展覧会の解説によれば、ムンクは物思いにふけるインゲルを描き、夕べの光の繊細な描写と、なめらかに単純化した岩の形が、その瞑想的な気分を強めている。英語版ウィキペディアによれば、制作に先立ち、ムンクは夏の夜の光の具合を確かめるため、夜9時から11時のあいだに習作を重ねた。研究者ラインホルト・ヘラーは、輪郭、空と海の境のない水平線、ほとんど単色の青が、時刻よりも気分を伝えると述べる。
来歴
英語版ウィキペディアによれば、1889年の夏、ムンクはオースゴールストランに小さな家を借り、最初の夏に本作を描いた。完成から数か月後、クリスチャニア(現オスロ)の秋の展覧会で初めて公開されたが、新聞からは「たわごと」と酷評された。館の来歴によれば、本作は1889年から1909年まで画家エーリク・ヴェーレンシェルが所有し、のちに収集家ラスムス・メイエルの手に渡った。1916年に遺族がベルゲン市に寄贈し、1924年からラスムス・メイエル・コレクションの一点となっている。所蔵番号はRMS.M.00240。
意義
コートールド・ギャラリーの解説によれば、本作は、ムンクが自分だけの表現を見いだした瞬間とされることが多い。人物の心の状態とまわりの風景を融け合わせ、本質的な形と色に絞り込む方法は、《メランコリー》などにも見られるムンクの作品の特徴となった。英語版ウィキペディアによれば、研究者ウルリッヒ・ビショフは、本作が、孤独や憂鬱、不安を表すムンクの表現の幅を示し、のちの連作「生命のフリーズ」の水平と垂直の構図を先取りしているとみる。